世界をリードするビール研究機関は、世界最古の醸造所
現存する世界最古の醸造所をご存じだろうか? ミュンヘン空港から北へ車で15分、フライジングという街にあるヴァイエンシュテファン醸造所だ。聖コルビニアンが725年に建てた修道院が始まりで、1040年にはここで造ったビールで巡礼者をもてなしていたという記録が残っている。11世紀といえば、日本は平安時代中期。そんな昔から醸造所でビール造りが続いているとは驚きだ。
「修道院でビール醸造」というと日本人の私たちには意外に思えるかもしれない。しかし当時のヨーロッパは衛生状態が悪く、ビールは水を一度煮沸して造るため、安全な飲み物として重宝されていたのだ。修道院は、各分野の専門家が集まり知識が蓄積される学府でもあったので、そこで造られるビールは当時からさぞおいしかっただろう。ナポレオンの進軍により修道院は解体。その後、醸造所はバイエルン王室の所有を経て、現在は州の公営企業として運営されている。
醸造所が建つ小高い丘は、大木が木陰をつくり、手入れされた草花が繁茂する美しい場所だ。敷地内にはミュンヘン工科大学の醸造学科も置かれ、醸造についての教育や研究が行われている。また世界最大級の酵母バンクを持ち、各国のビール会社に酵母を販売。近年では国外の醸造所とコラボレーションしたクラフトビールも世に送り出している。予約をすれば醸造所見学も可能だ。
併設のレストランでは、伝統的なバイエルン料理と共にビールが楽しめる。まずは「Hefeweißbier」で乾杯。小麦の麦芽を使用し、酵母をろ過せず瓶内に残したビールだ。白く濁ったオレンジ色で、泡は豊か。苦みは弱く、熟したバナナのようなフルーティーな味わいが広がる。
世界最古の醸造所にして、最新・最高の技術を駆使するヴァイエンシュテファン。980年の歴史と伝統を受け継ぎ、進化を続けるビールを飲みに、ぜひ旅ールに出かけてみては?