グーテンベルクの弟子が造った活版印刷所ビール
今年は、マルティン・ルターが宗教改革を唱えてから500年目の記念年だ。彼の思想の流布に大きな役割を果たしたのは、マインツ出身のヨハネス・グーテンベルグが発明した活版印刷技術であることはご承知の方も多いだろう。では、そのグーテンベルクの弟子の名を冠したビールがあることはご存じだろうか。
マインツはラインラント=プファルツ州の州都。フランクフルトから西へS バーンで40分程の、ライン川とマイン川が合流する場所にある。中世には大司教座が置かれ、重要な宗教都市であった。ロマネスク様式のマインツ大聖堂は威風堂々とした姿で旧市街の中心に鎮座する。大聖堂前のマルクト広場では野菜や花が並ぶ朝市が立ち、賑やかな雰囲気。反対側に広がるキルシュガルテンには木組みの可愛らしい家々が並んでいる。その先にはマルク・シャガール作のステンドグラスで知られる聖シュテファン教会。堂内はステンドグラスから降り注ぐ青い光で満たされ、まるで海の中を浮遊しているような感覚になるだろう。
この街でグーテンベルクの活版印刷発明に助力したのが、弟子のペーター・シェッファー(Peter Schöffer)だ。彼は師匠の死後マインツで印刷所を経営し、大聖堂に近い屋敷の内にビール醸造所を建てた。シェッファーの邸宅(hof)で造られるビールとして「シェッファーホーファー(Schöfferhofer)」と呼ばれるようになった。現在はフランクフルトのビンディング醸造所で醸造。「HEFEWEIZEN」は1978年からの販売で、バイエルン州以外で造られた初めてのヴァイツェンとして知られている。ラベルにはシェッファーの肖像。無濾過のためボトルの底に酵母が沈殿し白濁している。ヴァイツェン特有のバナナのような風味や酸味は穏やかで、アニスのようなスパイシーなニュアンスを感じる。食事の味を邪魔しない優しい味わいのビールだ。