マインの真珠で飲むヴィンテージビール
ドイツらしい景観に「木組みの家が並ぶ小さな街」がある。南のボーデン湖から北のエルベ川の河口に至る一帯は、木組みの建築が多く残されており、「ドイツ・木組みの家街道」と呼ばれている。バイエルン州の北西部、マイン川左岸に旧市街が広がるミルテンベルクもこうした街の一つで、マイン川の雄大な流れと相まって「マイン川の真珠」と称される。
交易と税関の中心地として発展したミルテンベルクには、ドイツ最古のホテルの一つといわれている「Gasthauszum Riesen」がある。歴代のドイツ皇帝や宗教家マルティン・ルター、画家のアルブレヒト・デューラーなど、名だたる人たちがここに宿泊している。三角屋根や出窓が目を引く木組みの建物は、16世紀後半からのものだ。現在も上の階はホテルとして、1階は郷土料理とビールが楽しめるレストランとして観光客にも愛されている。
そのレストランを運営しているのが、ミルテンベルク唯一の醸造所である「Brauhaus Faust」だ。レストランからハウプト通りを西に進むと、大きな窓の先にビールの仕込み窯が見える。醸造所は宗教戦争で疲弊した街を活気づけるために、ベルギーから連れてこられた醸造家によって設立された。1875年からは現在の所有者であるファウスト家によって運営され、1993年からBrauhaus Faustを名乗っている。
「Jahrgangsbock」は製造年がラベルに記載される特別なヴィンテージビール。年に一度だけ醸造され、岩のセラーで12週間熟成させてから出荷させる。2019年ヴィンテージのラベルに記載された消費期限は7年後の2026年。長期熟成も楽しめるシェリー酒やキャンディーヌガーを思わせる豊潤な味わいと、鼻腔を駆け抜けるアルコール感が心地良い。街の歴史とともに長年にわたって蓄積された知識や経験が作り出す、黒真珠のように高級感のあるビールだ。