大聖堂が見守る街の椀子ビール、ケルシュ
ライン川の河畔に位置し、ローマ時代からの古い歴史を持つ街、ケルン。街を象徴するのはユネスコの世界文化遺産にも登録されているケルン大聖堂だ。中央駅に降り立った旅人は、目の前にそびえ立つ高さ157mのゴシック様式の巨大な大聖堂の迫力に圧倒されることだろう。中央祭壇には、キリストの降臨を祝福した東方三博士の頭蓋骨が納められているという世界最大の黄金細工の聖棺が安置されている。
ケルンの伝統的なビールと言えば「ケルシュ」だ。大聖堂の周囲やライン川沿いにはケルシュを飲むことができるレストランや醸造所直営店が軒を連ねる。
「ケルシュ」は原産地統制呼称(AOC)を獲得しており、伝統と品質を守る「ケルシュ協約」にのっとって市内の醸造所で造られたものだけ名乗ることができるのだ。フルーティーな香りの上面発酵酵母を使用し、すっきりとした口当たりに仕上がる低温長期熟成で造られる。上面発酵、低温熟成のいいとこ取りをしたハイブリットビールだ。大麦麦芽のほかに小麦麦芽が使用されることもある。
提供時にも伝統は継承されている。シュタンゲ(Stange=小枝)と呼ばれる200mlの細いグラスに注がれ、王冠のような形をした手提げのお盆(Kranz)で運ばれる。空になると注文をせずともウエーターが新しいグラスに差し替えてくれる“椀子ビール”方式。
「フリュー ケルシュ」は1904年創業の家族経営の醸造所で造られており、現在の当主で5代目。大聖堂のすぐ横にある直営店は、昼夜を問わず多くの人でにぎわっている。ロゴに記された3つの王冠はケルン大聖堂の聖遺物、東方三博士を示している。黄金色に輝くグラスを覆うきめの細かい豊かな泡。フルーティーで華やかな香りと、ホップの爽やかな苦味。すっきりとした後口ながらも、心地よい余韻が長く続く。大聖堂の街にふさわしい上品なビールだ。