ゲーテの晩年を支えた黒ビール
ドイツ東部、ザクセン州に属するライプツィヒは学問と芸術の街だ。街の中心にあるライプツィヒ大学はドイツで2番目に古い歴史を持ち、詩人・ゲーテや哲学者・ニーチェ、メルケル独首相が学んだ。音楽ではバッハやメンデルスゾーン、シューマン、滝廉太郎らにゆかりが深い。街を歩けば、著名人のさまざまな足跡に遭遇する。ゲーテが学生時代によく通っていたというワイン酒場がAuerbachs Kellerだ。ここで耳にした黒魔術師のファウストゥス博士の伝説にインスピレーションを得て、代表作『ファウスト』が誕生した。物語にも実名でこの酒場が登場する。悪魔と契約を交わし、酒場から人類の英知の果てまでを巡る壮大な物語の雰囲気を肌で味わうことができる。
ゲーテは美食家としても知られる。ワインを愛飲したことは有名だが、晩年はビールを好んだ。それは友人の書簡から知ることができる。「ゲーテは、スープも肉も野菜も食べない。彼はビールとゼンメル(ドイツの丸いパン)で生きている。朝から大きなグラスでビールを飲んでいる。召使いにケストリッツァーの黒ビールか、茶褐色のビールを注文するだけなのだ」。この黒ビール「ケストリッツァー」は、ライプツィヒの南東50㎞に位置するバート・ケストリッツ村にある醸造所で造られている。創業は1543年。その長い歴史のなかで鉄血宰相・ビスマルクなど、多くの著名人に愛されてきた。最近ではメルケル首相が醸造所を訪れている。1991年にビットブルガー社の傘下となり、2014年からはドイツ以外のスタイルのビールも醸造を始め、世界中にファン層を拡大している。
「Köstritzer Schwarzbier」は、艶やかな黒ビールで漆器を連想させる。ロースト麦芽由来のビターチョコレートのようなほろ苦さと上品な甘みがあり、口当たりは凛としてシャープ。新しい年の始まり、襟を正して仕事に向かうのにぴったりだ。