昨年9月、日本からやって来た弟がベルリン・マラソンを完走したのに感化された私は、その半年後のハーフマラソンの参加を申し込んだ。正直なところ、「とりあえず」申し込んでみたという感じだった。それまで10キロとまとまって走ったことがないし、時々思い立ったようにジョギングを始めても継続できた試しがない。そうこうしているうちに訪れたベルリンの長い冬……。村上春樹さんが言うように、「走り続けるための理由はほんの少ししかないけれど、走るのをやめるための理由なら大型トラックいっぱいぶんはある」。
13キロ地点のクーダムにて。奥に見えるのはカイザー・ヴィルヘルム記念教会
いつの間にか本番が3週間後に迫り、ようやく重い腰を上げた私はランニングコーチもしている弟に相談しながら近所の公園を走り始めた。30分のスロージョグから始めて45分、2日空けて60分、最後に70分を1回だけ走った。
「レースの5日前までに60分のスロージョグができれば、ハーフは完走できるから」という弟の言葉を頼りにしながらも、やや不安な気持ちのまま本番の日を迎える。
4月3日は快晴、走るのにも最適な気候に恵まれた。スタートの約1時間前、カール・マルクス大通りに行く。ここから約3万2000人のランナーがスタートするだけあって、荷物の預け所となる大型トラックの数もすごい。私は最後尾のグループに並ぶが、周りを見るとスタートの数分前になっても悠々とトイレの列に並んでいる人が結構いる。少しずつ少しずつ前方に進みながら、ようやくスタートラインの上を通ったのはトップランナーが出発してから約35分後だった。
テレビ塔を横目に、前半はシャルロッテンブルク宮殿まで一路西へ。ウンター・デン・リンデンも、 堂々と車道の中央を走るだけに見える風景が普段と微妙に違う。ブランデンブルク門をくぐり抜け、左右に緑が広がる6月17日通りに入ったあたりから気持ちが乗ってきて自然とペースが上がる。楽しいと感じたのは、沿道の声援、そして場の雰囲気を盛り上げる音楽によるところが大きい。打楽器を中心とした地元のグループが作り出すリズムに、何度エネルギーと笑顔をもらったことだろう。クーダムに入った12キロ地点では家族と知人が手作りのプラカードを掲げて声援を送ってくれた。
足取りが重くなってきたのは、カイザー・ヴィルヘルム記念教会を過ぎたあたりから。中継所でもらうジェルとスポーツドリンクを口に流し込むが、ポツダム広場を過ぎてからの最後の3キロはさすがにきつかった。しかし、アレクサンダー広場付近では、それまでにないほどの沿道の大声援に胸が熱くなる。最後のカーブを曲がると、ゴールはもうすぐだった。
タイムは2時間12分。初めて走ったハーフマラソン、思ったほど息切れはしていないが、足を曲げると痛みがじんとくる。メダルを首に下げ、水、アイスティー、バナナを続けざまに受け取る。どれも信じられないほどうまく、体に染みわたった。とどめを刺したのは、大会スポンサーであるエアディンガー社のアルコールフリーの白ビール。この充実感を体験するためだけでも、また参加したいと思ったほど。
足を引きずりながら、ゴール付近まで見にきてくれた家族と落ち合う。妻に「来年も走るの?」と聞かれると、「いや、ハーフは大体わかったから、次はフルマラソンを目指してみたい」と自然と口を衝いてしまう自分がいた。
ベルリン・ハーフマラソン
Berlin Half Marathon
1980年代初頭、東西ベルリンで別々に始まったハーフマラソン大会が、1990年に統合され現在に至る。スタートとゴールのアレクサンダー広場(MAP)近くを拠点に、ベルリンの代表的な観光名所を通る魅力的なコースになっている。次回開催は2017年4月2日、下記サイトから先着3 万人が申し込み可能。参加費用は、先着5000名までが35 ユーロ、1万5000人までが40ユーロ、3万人までが50ユーロ。同じ日にインラインスケートのレースも行われる。
URL:www.berliner-halbmarathon.dewww.hdg.de
ベルリン・マラソン
Berlin Marathon
ロンドン、ボストン、東京マラソンと並び、ワールドマラソンメジャーズの一つに数えられる大会。毎年9月最後の日曜日に開催される。世界屈指の高速レースとしても知られ、男子部門は2003年以降、世界記録が実に6回更新されているが、女子部門は野口みずき選手が2005年にマークした大会新記録(2時間19分12秒)がいまだに破られていない。今年は9月25日開催で、スタートとゴール(MAP) は6月17日通り。一般ランナーの受け付けは終了。