夏の暑い日、ベルリンの地下空間にもぐって涼んでみるのはいかがでしょうか。地下といっても地下鉄駅やデパチカのことではありません。戦時中の防空壕、核シェルター、建設されたものの結局使われなかったトンネルなど、ベルリンの地下にはそんなおどろおどろしい過去の遺構がいくつも眠っているのです。
1997年以来、知られざるベルリンの地下世界を研究している「ベルリンの地下世界協会」(Berliner Unterwelten e.V)が定期的に開催するツアーに参加してみました。いくつか用意されているコースの中からこの日選んだのは、「気送郵便」(Rohrpost)の舞台を巡るツアー。
気送郵便と聞いてピンとくる方はどれだけいらっしゃるでしょうか。これは、圧縮空気によって、手紙や葉書、電報の入った筒のケースを地下のパイプを通して瞬時に送る郵便方式で、ベルリンでは1865年に実用化され、1945年までが最盛期でした。当時張り巡らされていたパイプの全長は400キロにも及び、パリに次いで世界2番目の規模だったというから驚きです。
毎週日曜日の11時と13時に行われるツアーの集合場所は、ミッテのオラニエンブルク通り、新シナゴーグのほぼ向かいにある、かつての中央電信局の横です。気送郵便の本も著しているイングマール・アーノルトさんが1時間半にわたって案内してくれました。
複雑怪奇な機械類
ドイツ語のみの説明を聞き取るのは容易ではありませんでしたが、複雑怪奇な機械類を見て回るだけでも、電信からEメールにいたる人類のコミュニケーションの歴史が垣間見られて興味深かったです。かつて手紙の入った筒のケースが次々と送り込まれてきた受信室に立っていると、往年の活気が眼前によみがえってくるようでした。
気送郵便は、ベルリンが東西に分断された後も活躍しましたが、1976年に東側で廃止されたのを最後に、人々の記憶から急速に忘れ去られていきます。数十年間放置されたままの地下内は、涼しいというよりも肌寒いほどで、床にはキノコが生えていました。
かつて郵便物を入れたケースを手に説明するアーノルトさん
いまにもお化けが出てきそうな雰囲気の地下