昨年9月、さまざまな文化施設がひしめき合うベルリンに、また一つ新たな文化の発信基地が生まれました。今回はこのユニークなアートスペースをご紹介したいと思います。
アレクサンダー広場から東へ向かうSバーンに乗ると、列車はやがてシュプレー川に沿って走ります。オスト(東)駅が近づく頃、煙突が目印の赤レンガの建物が視界に入ってくるのですが、それがRadialsystem (http://www.radialsystem.de)です。
「ラディアルシステム」とは何やら耳慣れない響きかもしれません。実は、20世紀初頭にこの建物が下水処理施設として建てられた時の名前なのです。戦後長らく廃墟のまま放置されていましたが、歴史的な建物とガラス張りの新しい部分とを融合させるという建築家ゲルハルト・シュパンゲンベルクの斬新なアイデアにより、複合的なアートセンターとして生まれ変わりました。2つの大ホールの他、楽屋、リハーサル室、バーなどを備え、シュプレー川を望む開放的な眺望はすばらしいものがあります。
ラディアルシステムのコンセプトは非常に明快です。すなわち、「伝統」と「革新」。新旧の要素が組み合わさったこの建物のように、様々なジャンルのアートがここで出会います。コンテンポラリーダンスの第一人者サシャ・ヴァルツ&ゲスツが新作を発表する一方でベルリン古楽アカデミーがバロック音楽を演奏したりというような、コントラストの際立つプログラムは魅力的です。古楽といっても、ここでは伝統的なクラシックコンサートのスタイルにはあまりこだわりません。例えばNachtmusik(夜の音楽)というシリーズでは、椅子のない広いスペースで聴衆は寝っころがりながら音楽を楽しむことができます。
「伝統」と「革新」、それはベルリンをベルリンたらしめる根本的な要素なのかもしれません。民間経営のラディアルシステムは、他の公共文化施設に比べるとチケットの値段はやや高めなのですが、大小様々な劇場が林立するベルリンで、これから目の離せない存在になりそうです。