見本市を目的にベルリンに来られた方は、少なくないのではと思います。
ベルリンの見本市といえば、SバーンのMesse Nord駅で下車するとすぐに見える宇宙ステーションのような外観の国際会議センター(ICC)や見本市会場がよく知られていますが、その裏手にこんな建物があるのをご存知でしょうか?
ドイチュラント・ハレ(Deutschlandhalle)という名の鉄骨製の大きなホール。約1万人を収容することができます。最近この建物の取り壊しに関するニュースを耳にし、興味が沸いたので実物を見てきました。
Deutschlandhalle
歴史を紐解くと、なかなか興味深い過去を持つホールです。ベルリン・オリンピックに合わせて建設されたドイチュラント・ハレは、1935年にヒトラーの同席のもとでオープン。翌年のオリンピックでは、ボクシングや重量挙げの会場として使われました。第2次世界大戦中に爆撃を受けましたが、戦後再建され、やがて西ベルリン最大のイベント会場として、コンサートやスポーツに頻繁に利用されることになります。モハメド・アリ、ローリング・ストーンズ、デヴィッド・ボウイといったスターたちが観衆を熱狂させ、中でもジャズ・シンガーのエラ・フィッツジェラルドがこのホールで公演を行った時のライブ録音「マック・ザ・ナイフ~エラ・イン・ベルリン」は、名盤として今日でも広く愛聴されています。
東西分断時代、このように陸の孤島だった西ベルリンの人々に多くの楽しみをもたらしたホールですが、近年は老朽化が進み、ベルリン市はついに今年4月末での閉鎖を決定しました。取り壊しの後には、見本市会場の延長として新しいホールが建てられる予定だそうです。その歴史的な意義から、地元のシャルロッテンブルク地区やCDUの議員の間では取り壊しに対する反対の声が根強いようですが、おそらく市の決定が覆ることはないでしょう。
ベルリンでは昨年秋、東駅の前に“ O2 World“という最新の設備を備えた多目的アリーナが完成しました。文化財にも指定されたドイチュラント・ハレですが、その前に立ってみると色あせた感が目立ちます。役目はもう十分に果たしたということなのかもしれません。
O2 World