80年近い歴史を持つベルリンのSバーンが、かつてない大混乱に陥っています。東京に例えると、山手線や中央線をはじめ、JRの近郊電車が数週間にわたってほぼ麻痺状態になるという、普通は考えられない状況です。
事の発端は5月1日にカウルスドルフ駅で起きたSバーンの脱線事故でした。幸い大きな事故ではなかったものの、ある車輪円盤に見つかった50ミリの亀裂が事故の原因だったことがわかり、鉄道連邦庁は車輪検査の周期を短くするよう命じました。Sバーン側はその要求に応じましたが、実際は要求された規模の検査を行っていないことが6月末に発覚。同庁から、検査が実施されていない車両を運行から外すよう命じられました。その頃からSバーンのダイヤが大幅に乱れ、街は大混乱に陥ったのです。
脱線事故で今回の騒動の発端となったSバーンの481型
Sバーンの経営側は7月20日から2週間半にわたって、8つの路線と19の駅の営業を休止し、緊急ダイヤを実施することに決めました。その中には、ツォー駅から中央駅を経て東駅まで続く大動脈やシェーネフェルト空港行きの路線も含まれているというから、これは一大事。運休中の路線では、姉妹会社であるドイツ鉄道のレギオナル・バーン(地域鉄道)やバスによる代替輸送が実施されました。
今あるSバーン632両のうち、安全基準を満たしている車両は4分の1だけとのこと。車軸を超音波で調査し、場合によってはそれを交換する作業が急ピッチで進められていますが、同社は車軸を扱っていた工場を数年前に解体、その際に従業員も解雇したため、修理工の人員が足りていないという不都合も重なりました。
しかし、8月3日、現場の必死の作業もあって、当初の予定より早くこの状況に終止符が打たれました。通常ダイヤより本数は少ないものの、現在はほぼすべての路線で運行が再開しています。ベルリンでは、8月15日から23日まで「世界陸上」という一大イベントが控え、世界中から大勢の関係者や見物客がやって来るだけに、ひとまず安堵した関係者は多かったことでしょう。
とはいえ、通常の状態に戻るのはまだ当分先のことです。Sバーン社長のブーフナー氏は、最近のインタビューの中で、Sバーンが通常の状態に戻るのは12月と約束していますが、懐疑的な見方もあります。これからベルリンに来られる方には、Sバーンのサイト(www.s-bahn-berlin.de)などで最新の情報をチェックされておくと良いかもしれません。
Sバーン運休区間ではレギオナル・バーンが増発中