ドイツ代表GKのロベルト・エンケ選手の自殺は、ドイツ全土に大きな衝撃を与えました。私もショックを受けた1人だったのですが、そんな折、新聞に掲載された演出家ハンス・ノイエンフェルスのインタビュー記事が目に留まりました。
「人生はショーではない。演劇もまたそうで、人間という存在の孤独さを表現することにかかっている。我々は人生での失敗や無能、ばかばかしさを認めてやらなければならない。それは、ロベルト・エンケの生と死にも関わるものだ」。
このインタビューを読んで、彼が演出する現代オペラ『リア王』を観てみたくなり、11月22日のプレミアに足を運んで来ました。
1978年に初演されたアリベルト・ライマン作曲の『リア王』は、シェークスピアの原作をかなり忠実にオペラ化した、今も歌劇場のレパートリーに残っている数少ない現代オペラの1つです。幕が開くと、極めてシンプルな舞台が現れ、椅子に並んで座った登場人物がこちらを見つめています。背後には無数の小さな虫がうごめく映像。老リア王が、領土を象徴する自分のマントを引き裂いて、娘たちに与えるところから悲劇が始まります。
リア王とそれに寄り添う道化師
© Wolfgang Silveri
挑発的な演出で知られるドイツ人演出家ノイエンフェルスは、数年前モーツァルトのオペラ『イドメネオ』でムハンマドの首が登場する場面をめぐり、社会的な論争の的になりました。
しかし、この『リア王』では、スキャンダラスなシーンは皆無でした。不協和音を駆使した音楽に力があるため、テキストと音楽が生み出すドラマに忠実に舞台を組み立てている印象を受けました。そこから浮かび上がってくるのは、安定した社会構造から放り出され、娘にも裏切られたリア王のすさまじいまでの孤独感でした。並行して描かれるグロスター伯爵の悲劇と、カウンターテノールで歌われるその息子エドガーの悲痛な叫びも、生きることの深淵を見るかのようなすごみがありました。
「個人の力を信じたヴェルディは『リア王』を音楽化しようとしなかった、できなかった。でも、20世紀のカタストロフィーを知るライマンは、愛、信頼、友情のいずれとも切り離された孤独な人間存在を描くことができた」(ノイエンフェルス)。今年73歳の作曲者ライマンは、カーテンコールの最後に登場し、熱狂的な喝采を浴びていました。現代作品特有の難解さはあまりなく、原作の『リア王』の筋さえ知っていれば、きっと何らかの発見がある舞台だと思います。
コーミッシェ・オーパーでは最近、全座席に字幕システムが導入され、英語かドイツ語の字幕を選べるようになりました。シンプルで使い勝手がよく、鑑賞する上で大きな手助けになってくれることでしょう。今後の上演は12月18、27日、1月17日。
冒頭のシーンより。うごめく虫に象徴されるものは?
© Wolfgang Silveri