この9月からいよいよ大規模な改装工事が始まったベルリンの州立歌劇場(Staatsoper)。丸3年間に渡る工事期間中は、西側のシラー劇場が仮の本拠地となるのですが、9月19日に行われた引っ越しは、その特別な趣向で話題を集めました。
それは、州立歌劇場のあるミッテ地区からシラー劇場のあるシャルロッテンブルク地区へ、歌劇場の関係者が船に乗ってやって来るというものです。この日の夕方、船が到着するゴスコフスキー橋に行ってみると、すでに大勢の人々が周辺に集まっていました。そして18時頃、最初の船が着岸すると、周囲から大きな拍手で迎えられ、ベルリン・ドイツオペラの児童合唱団が歌で歓迎しました。シラー劇場はドイツオペラから徒歩10分ほどの距離で、この2つのオペラ劇場はしばらくの間、ご近所同士になるのです。音楽監督のダニエル・バレンボイムと劇場支配人のユルゲン・フリム夫妻が上機嫌で人々の前に姿を現すと、やがてシュターツカペレのメンバーや歌手、合唱団を乗せた計4隻の船も無事到着しました。
最初の船が到着すると、自然と歓声が沸き起こった
今度はシラー劇場に舞台が移ります。フリムの掛け声で劇場のドアが開くと、待ち受けていた大勢のファンがなだれ込みました。“Kleine Nachtmusik”と題した入場無料のコンサートが皆さんのお目当てだったのですが、あまりの人混みで座れない人が続出。急遽舞台上にも椅子が組まれることになりました。その間、フリムが司会者となって開演までの間をもたせたのですが、そこで彼が始めたのが「劇場最初のリハーサル」。あるフレーズをお客さん全員に朗読させたり、上と下の階で分けてブラボーとブーイングを大音量で交互にさせたりと、この「音響チェック」により、演奏が始まる前から舞台の盛り上がりは最高潮に達しました。
やがて、シュターツカペレがバレンボイムの指揮で、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」を華やかに奏でると(サプライズでバレンボイムのピアノのアンコールも)、この歌劇場のお馴染みのソリストたちが数曲ずつアリアやリートを、そして最後は専属の合唱団が「カルメン」や「タンホイザー」などから壮麗な歌を歌い上げました。
改装されたばかりのシラー劇場は、元々は演劇用の劇場のため客席がやや窮屈に感じられたものの、音響はなかなかのものです。今シーズン最初のプレミエは、先日惜しまれつつこの世を去った舞台・映画監督クリストフ・シュリンゲンジーフ演出の『メタノイア』。州立歌劇場の新しいシーズンから目が離せません。
シラー劇場の前で入場を待ちわびる人たち