2010年、ベルリンは「学術年」(Wissenschaftsjahr)を祝っています。というのも、今年から来年にかけて、ベルリンの歴史ある学術機関が軒並み記念の年を迎えるからです。例えば、国立図書館の創設350周年、欧州最大の大学病院「シャリテ」は300周年、フンボルト大学と自然史博物館が200周年、マックス・プランク協会とベルリン植物園が100周年といった具合です。現在、ベルリンは200以上の研究機関、約20万人もの学生や研究者を抱えていると言いますから、この記念年の副題通り「知の首都」と呼ぶことができるでしょう。
先日、この学術年のハイライトを飾る展覧会、マルティン・グロピウス・バウで開催中の「WeltWissen(世界を知る)」に足を運んできました。
リヒトホーフに置かれている、書庫を模した巨大インスタレーション
Regalinstallation im Lichthof Foto: © Roman März
まず、吹き抜けホールの書庫を模した巨大なインスタレーションに目を奪われます。それぞれの棚にはベルリン生まれの展示品が置かれ、解説付きの望遠鏡で覗き込むという仕組みです。そこからは、1710年から現在に至るまでのベルリンにおける学術の歩みを年代別に展示した部屋が続きます。例えば、200年以上も昔のものとは思えない生々しい動物のホルマリン漬け、哲学者ヘーゲルがフンボルト大学での講義のためにしたためた原稿、物理学者ヴェルナー・フォン・ジーメンスが制作した炭素アーク灯など、多くがその実物と共に展示されているので、誰でも楽しめると思います(説明はすべて独英表記)。
私が特に感動したのは、最後の部屋に置かれていたベートーヴェンの第9交響曲の2冊の直筆の総譜。なぜ2冊あるのかというと、第2次世界大戦の末期、もともと何巻かに分かれていた直筆譜が東西に散らばってしまい、1997年に全巻が再びベルリン国立図書館に収蔵されるまで、56年もの歳月を待たなければならなかったためです。まさに、「ベルリンの壁」崩壊以降の展示室に置かれるにふさわしい至宝でした。
これで終わりかと思いきや、「知への道」と題したもう半分の展示が残っていました。こちらはテーマ別に部屋が分けられ、展示の仕方にもさらに工夫が凝らされていて面白かったです。例えば、「計算」という部屋ではコンラート・ツーゼによる世界最初のコンピューターが、「旅」という部屋では探検家アレクサンダー・フォン・フンボルトの世界旅行の軌跡が示されます。また、アインシュタイン、哲学者ライプニッツやベンヤミン、建築家のシャロウンらが独自の理論や建築を生み出す元となった草稿やスケッチを展示する部屋もあり、天才たちの思考と想像の現場に居合わせたかのようで、いくら眺めていても飽きることがありませんでした。同展は来年1月9日まで開催されています。
少し前までポツダム広場に設置されていた
「ベルリン学術年」のインフォボックス。
ドイツ語で「学問」を意味する“Wissenschaft”
の頭文字Wがシンボルマーク