2月11日、ある日本人音楽家がベルリンでデビューを飾りました。指揮者の山田和樹さん(32歳)。2009年にブザンソン国際指揮者コンクールに優勝したことで躍進し、昨年はサイトウ・キネン・オーケストラやパリ管弦楽団などの著名なオーケストラを指揮して大きな成功を収めた、今最も注目を集めている若手指揮者の1人です。すでに欧州でも本格的に活動している山田さんですが、ドイツで指揮をするのは今回が初めてとのこと。その記念すべきデビュー公演に立ち会うことができました。
当夜の会場は東駅から徒歩5分の複合文化施設、ラディアルシステムV。テレビの司会などでも有名なカバレティストのヘルベルト・フォイヤーシュタインさんが進行役となってベルリン放送交響楽団が演奏する、ユニークな趣向のコンサートでした。
冒頭、まだどこか初々しさの残る山田さんがオッフェンバックの《青ひげ》序曲を颯爽と指揮すると、いきなりブラボーの声が飛び、会場は期待感に包まれます。フォイアーシュタインさんが、オペラにおける愛の形を政治風刺も交えながら語り、お客さんから笑いを誘ったかと思うと、山田さんはビゼーの《カルメン》や、R.シュトラウスの《バラの騎士》組曲、ショスタコーヴィチの《ムツェンスク郡のマクベス夫人》組曲を振って、日頃オペラを演奏することはほとんどないこのオーケストラから、きらきらした色合いとドラマチックな響きを引き出していました。後半は有名な《モルダウ》を含むスメタナの交響詩《わが祖国》から3曲ほかを指揮し、山田さんのことを知らないおそらくほとんどの聴衆の心にも、鮮やかな印象が残るコンサートだったと思います。
ベルリン放送交響楽団とのリハーサルで指示を飛ばす山田和樹さん
その数日後、数年前から山田さんが拠点とするベルリンのご自宅でお話を伺いました。目まぐるしく動いた昨年、そしてクラシック音楽の今後にも話題が移ります。「つい最近、ナントのラ・フォル・ジュルネ音楽祭に出演する機会があったのですが、お客さんはいっぱいだし、すごい熱狂ぶりでした。でも、この中で日頃からコンサートに足を運ぶ人はどのぐらいいるのだろうかとも感じました。いかにしてファンやリピーターを増やすことができるか。それは自分のオリジナリティーをどこまで深められるかに掛かっていると思います」。
今年から来年にかけて、山田さんは首席客演指揮者への就任が決まったスイス・ロマンド管弦楽団のほか、パリ管弦楽団、ドレスデン・フィル、プラハ交響楽団、バーミンガム市交響楽団など、欧州の名門オーケストラへの客演が決まっています。今後の夢について聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。「オペラをやりたいですね。そして、いつかベルリン・フィルやウィーン・フィルを振ってみたい。できれば60、70歳になっても継続的に指揮できるような存在でいたいです」。
やさしい語り口調の中にも音楽への飽くなき情熱が垣間見える山田さん。今後の活躍に目が離せません。