「ベルリンで一番好きな地域は?」と聞かれたら、今なら私は真っ先に「クロイツベルク!」と答えるかもしれません。正直、ベルリンに来た当初は、クロイツベルクというと「トルコ人などの移民が多く住む雑多な地域」という一般的なイメージしか持っておらず、住んでみたいとも特に思いませんでした。
ところが4年前、たまたまクロイツベルク西側のアパートに住むようになってから、その印象は大きく変わったのです。見えてきたのは、クロイツベルクの驚くべき多様性でした。
クロイツベルク西部にあるシャミッソー広場近くの重厚なアパート群
例えば建物一つを取っても、戦後の集合住宅が建ち並ぶ界隈もあれば、第2次世界大戦の惨禍を免れ、100年前の街並みがそのまま残っている地域もあります。昨夏、私はヴィム・ヴェンダース監督の映画「ベルリン・天使の詩」のロケ地を探して歩き回ったのですが、多くのシーンが当時壁のすぐ南側に位置したクロイツベルクで撮影されていたことを知りました。
「ベルリン・天使の詩」のサーカスシーンが撮影された公園
戦争と壁―。これが、20世紀後半以降のクロイツベルクを形作ってきた決定的な要因でしょう。しかし戦前のクロイツベルクを知るドイツ人の知人に話を聞くうちに、「トルコ人街」となる前の様子もおぼろげながら私の前に浮かび上がってきました。歴史の重層性とそこに住む人々の多様性。私がクロイツベルクに惹かれるのも、おそらくそこだろうと思います。素敵なカフェも多く、何より散歩するのに楽しい界隈です。
そんなクロイツベルクを30年間撮り続けてきた写真家ヴォルフガング・クローロフの写真展「ベルリン・クロイツベルクから世界へ」が、Galerie argus fotokunstで開催されています。1970年代の住宅占拠運動やパンク、壁など、時代を彩ってきたモノと人とが、モノクロのファインダーを通して印象的にとらえられています。踊りのポーズを取っているトルコ人の少女や、用をなさなくなった壁の周りで遊んでいる子どもたちなど、何気ない街角の風景を収めた写真が私にはとりわけ心に残りました。
写真展は10月6日まで