ドレスデンの南東18キロに、シュモルスドルフ(Schmorsdorf)という小さな村があります。この村の一番のランドマークは、樹齢700年とも1000年とも言われる巨大な菩提樹。三十年戦争の最中、1630年頃の文献に初めて登場する樹です。
そしてもう1つ、この村を特徴付けているのが、この樹の足元にある菩提樹ミュージアム(Lindenmuseum)です。これはドイツで最も小さなミュージアムで、建物の寸法は2×3m程度、面積は6.85㎡。四畳半以下の面積なので、まるで物置小屋くらいの規模です。この建物の由来ですが、記録に残っている事実としては、1888年に消防ポンプ小屋として使用されていたことが挙げられます。1992年以降は郵便配達所として利用され、2006年5月27日にミュージアムとしてオープンしました。
ミュージアムと巨大な菩提樹の対比が印象的
大人が2人も入ればすでに圧迫感があるほど小さな展示会場。主な展示テーマは村の歴史と菩提樹です。それに加えて、著名なピアニストであり、作曲家シューマンの妻でもあったクララ・シューマン(1819~96年)がこの村を訪問したという事実が、大々的に紹介されています。シュモルスドルフ近郊のマクセン村(Maxen)の城に1819年から1881年までゼレ夫妻という夫婦が居住しており、この夫妻は多くの著名な芸術家を城に招いて擁護していました。シューマン夫妻も1836年から1849年にかけて、しばしばここに滞在しています。クララはその滞在期間中に時折、シュモルスドルフ村まで散歩に出掛けたことを日記や手紙に記しており、大きな菩提樹にも触れていました。
ところで、このマクセン村は大理石の産地として有名で、ここで採掘される約50の色彩に富んだ大理石は、当時大変重宝されていました。そのため、ツヴィンガー宮殿や宮廷教会、モーリッツブルク城の礼拝堂など、ザクセン王と直接関連のある建物のみに使用が許可されていたそうです。
ちなみに、キャサリン・ヘプバーン主演の『愛の調べ(Song of love)』(1947年)は、クララ・シューマンの半生を描いた映画です。冒頭シーンは、1839年にドレスデンのゼンパー・オーパーで開催されたフリードリヒ・アウグスト2世の御前演奏会で、最後のシーンは1890年に晩年のアルベルト国王臨席の下で開かれた演奏会です。また、若きブラームスがシューマン宅を訪れて「ドレスデンから来ました」と言うシーンもあり、ドレスデンと大変縁の深い映画です。
ドイツで一番小さなミュージアムの内部
Lindenmuseum Clara Schumann
Unter der Linde 1, 01809 Müglitztal
Tel: 035206-31056
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/