教会や寺院など宗教関係の建築は、その時代の富と権威と信仰、つまり人間の持つ全ての力を注いだ軌跡であり、これまでの歴史的な影響を受けているので、旅行先では訪れるべき価値があると言えるでしょう。16世紀前半の英ヘンリー8世による宗教改革で廃止の憂き目にあった修道院や、戦乱や衰退で廃墟になった教会以外の多くは、今日でも使用されています。外観を撮影し、中に入って宗教画や彫刻やモザイクを見ながら一周する。これだけでも十分堪能できますが、偶然にも礼拝の時間にぶつかると、遠慮しながら見学することになります。
そこでおススメなのが、日曜日の礼拝(Gottesdienst)への参加です。教会は「神の家」であり、信者にとっては聖なる場所ですが、基本的には誰でもウエルカムです。聖母教会(Frauenkirche)は1726~43年にかけて建設された、ルター派のプロテスタント教会です。1945年2月13日のドレスデン空襲によってがれきの山となりましたが、再建が始まり2005年10月30日に完成式を迎えました。ドレスデンで一番の人気観光スポットで、見学に訪れる人々が連日長蛇の列をなしています。蘇った優雅で豪壮なバロック様式の教会は、コンサートにも使用できるよう照明をはじめ最新の装置を完備しており、つい先日も美人バイオリニストとして人気のムターが演奏し、本格的なコンサートホールとしてもフル稼働しています。
蘇った聖母教会
日曜日には11時と18時の2回、1時間半ほどの礼拝が行われます。競争率は高く、開始30分前に行ったにも関わらず4階分ほど階段を上ることになり、目もくらむ高さから参加しました。入口で配布されるパンフレットには演奏される曲目、参列者が歌う賛美歌の楽譜と歌詞、牧師や参列者のセリフなどが書かれています。約30分間の牧師の説教以外はほぼ音楽なので、さながら教会コンサートのようです。教会付属の室内楽団および合唱団によるバッハのカンタータに始まり、専属パイプオルガニストの演奏で終わるまで、ドレスデンと聖母教会の威信をかけた優雅な時間が流れました。教会音楽を礼拝で聴く、これはステキな体験で す。
華麗な祭壇とパイプオルガン
出口の前では寄付を募る布袋を持った人がにこやかに挨拶してくれます。参加した後はささやかな気持ちを忘れずに。
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/