デュッセルドルフに秋の訪れを告げる芸術祭「旧市街の秋(altstadtherbst kulturfestival)」。1991年以降毎年開かれているこのイベントは今年、名称を「デュッルドルフ・フェスティバル(düsseldorf festival!)」に改め、9月12日~10月3日に市内各地で開かれました。
コンサート開始前の聖ンベルトゥス教会の入り口
「我々は、風向きを変えることはできないが、帆の向きを変えることならできる」とは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの名言。デュッセルドルフのエルバース市長いわく、芸術祭の名前を変えたのは、世界各国から著名な芸術家や革新的な芸術活動を展開する若手アーティストのパフォーマンスを加えることで、20年来続く秋の芸術祭に、このアリステレスの言葉のように新たな風を呼び込みたいと考えてのこと。そのためか、今年のプログラムには、バッハのクラシック音楽にモダンなデジタル音楽のアレンジを加えたコンサートから、イスラム教、キリスト教、仏教の音楽を融合させることで宗教や音楽に対する既定概念を打ち破ろうというダンス演劇まで、オーソドックスな芸術を一捻りも二捻りもした作品が目立ちました。
22日間の期間中に披露された演目は30以上。盛りだくさんのプログラムの中で、私が足を運んだのは最週末に行われた宗教声楽のコンサートです。場所は14世紀に完成した、ライン川沿いに佇むゴシック様式の聖ランベルトゥス教会。1989年に設立され、今やドイツ国内はもとより、欧州各地の音楽フェスティバルに引っ張りだこというデュッセルドルフの声楽アンサンブル「Ars Cantandi」が、その美声を響かせました。
神聖な空間に美声を響かせる「Ars Cantandi」
楽曲は、11世紀にライン川沿いの町ビンゲンにベネディクト会系女子修道院を開き、院長を務めたヒルデガルト・フォン・ビンゲンや、約200曲の歌曲・合唱曲を遺したヨハネス・ブラームス、エストニア生まれの現代作曲家アルヴォ・ペルトなど、11人の作曲家による計19曲。11~20世紀の宗教曲の歴史をコンパクトにまとめた内容でした。教会のステンドグラスと高いアーチ型の天井にこだまする神聖な歌声に聴き入っているうちに、1時間余りのコンサートはあっという間に終了。厳かな雰囲気の中、客席からは盛大な拍手が響き渡りました。興味深かったのは、古い時代の楽曲も現代音楽に通じる響きを持っていたこと。どんなジャンルでも、名曲は時代を超えて歌い継がれるものなのだと、これまであまり縁のなかった宗教音楽の世界に親しみを感じたひとときでした。
来年もぜひ、奥深いアートの世界に触れ、芸術的感性を磨くべく、この芸術祭を訪れたいと思います。
平均的なドイツ人男性と並ぶと目線が腰の辺りに来る程度の身長で、ドイツでは服や靴選びに難儀している。しかし、「klein, aber fein(小さくても良いもの)」という言葉を自分自身に当てはめ、より良い自分を目指して日々奮闘中。