ドイツも秋になり、気候的にも過ごしやすくなりました。食欲の秋、読書の秋、実りの秋、芸術の秋、スポーツの秋など、さまざまなことに打ち込める絶好の季節ですね。今回はそのなかでも「芸術の秋」にかけて、約8年もの長い年月をかけて建設され、今年6月下旬に開館したヴィースバーデンのラインハルト・エルンスト美術館(Museum Reinhard Ernst)をご紹介します。場所は、ヴィースバーデン中央駅から徒歩約15分。駅前に広がる州立公園のライジガー=アンラーゲンをのんびり歩いてくることができます。
入口にある美術館のロゴ
この美術館は、芸術と文化を促進し、歴史的建造物の保護に取り組んでいるラインハルト& ソーニャ・エルンスト財団による民間資金で建設・運営されており、起業家ラインハルト・エルンスト氏の個人コレクションを展示しています。設計は、建築界のノーベル賞ともいわれるプリツカー賞や数々の日本国内外の賞を受賞した日本人建築士の槇文彦氏。美術館の建築には、日本家屋でよく目にする坪庭や千本格子のアイデアも取り込まれています。個人的にはほっと落ちついて、椅子に腰を下ろしてお茶でも飲みたい気分になるような空間でした。
それぞれの作品について、解釈を語り合う楽しさがあります
また光の取り入れ方にも感銘を受けました。この美術館では抽象芸術のみを展示していますが、窓から差し込む光でできる影によって、部屋の奥行きが変化し、作品に深みが増しているように感じます。空間をぜいたくに使って置かれた作品の数々と、作品を引き立たせる建築設計に、どの展示室にも私は大満足でした。
館内の中心にある坪庭。やさしく光が降り注ぎます
創設者であるエルンスト氏は、多くの市民、特に次世代の子どもたちがたくさんの芸術、そのなかでも抽象芸術に触れ、創造力を目覚めさせてほしいと考えているそうです。そのため平日の午前中は、教育機関のために開館しています。また18歳までの人はいつでも入場無料です。通常は14ユーロかかる入場料も、毎月最終火曜日の15~18時は無料開放しています。残念ながら、オープンする直前に逝去した槇文彦氏の遺作となったこの美術館。同氏を追悼して、2025年2月9日(日)まで、槇文彦展も開催しています。ぜひこの機会に訪れてみてはいかがでしょうか。
最後にもう1点。私の周囲からは、「美術館のトイレに感動した!」という声が多数上がっています。美術品のみならず、皆さんが訪れるときにはぜひぜひトイレもチェックしてみてください。「このデザインを家に持って帰りたい」と言っている方もいましたよ。
2013年からヴィースバーデンに在住。日本とドイツで出産を経験し、現在は2児の母。つたないドイツ語にあくせくし、日々格闘中。人の工夫が伝わる建造物や食器を見るのが好き。