ジャパンダイジェスト

MMK―― 3つの現代美術館

三角形の外観から「ショートケーキ」の名で親しまれているフランクフルト現代美術館(MMK)。過去には荒木経惟氏の写真展や村上隆氏の回顧展も開かれ、在独日本人にも馴染み深い美術館です。映像作品を投影できる個室、1つ1つの作品をじっくりと鑑賞できる区切られた展示室、縦の空間を存分に使える吹き抜けホールなど、異なる芸術家の特徴的な作品も、それぞれ独立して展示できるのが魅力です。多様な現代芸術の発表の場として愛されてきたこの美術館の屋上には、本誌959号(2013年8月2日発行)で紹介した都市養蜂プロジェクトの一環として養蜂の巣箱が設置されています。また、MMKの向かいにある旧中央税関の建物では小規模な展覧会や個展を開催し、若い芸術家にも発表の機会を提供してきました。

そんなMMKにこの秋、分館がオープンしました。「MMK2」と呼ばれる第2の現代美術館は、金融街の一角にあるタウヌスタワー(Taunus Turm)に開館。高層オフィスビルのワンフロアが美術館になるというユニークな形態で、初日だけで2000人以上が来場しました。また、MMK2の開館に合わせ、旧中央税関の展示場もMMK3と名を変え、3館での展示が可能となりました。

オフィス用に提供されている
高層ビルのフロアが美術館として開館
オフィス用に提供されている高層ビルのフロアが美術館として開館

現在、MMK2では「Boom She Boom」と題された、女性の芸術家による作品のみを集めた展覧会が開催中。区切られた空間の多いMMKとは対照的に、MMK2では約2000㎡の広さのワンフロアをそのまま利用し、全作品を同等に展示できるのが魅力です。数ある展示品の中でも特に印象深かったのは、ドイツ人芸術家カタリーナ=フリチュ氏による「ディナー・パーティー(Tischgesellschaft)」です。全く同じ黒服の男性の人形が32体も並んでおり、そのスケールには圧倒されました。すぐ後ろの壁には、ドイツ人写真家アンヤ=ニードリングハウス氏の戦争写真が並び、さらに奥には韓国人芸術家イ=ジュヨ氏の「動く床(Moving floor)」という作品が続きます。動く床では、来場者が作品上を歩くことができ、絵画や映像作品、立体オブジェなど多彩な作品が並ぶ館内に、ギシギシと床が軋む音が響いていました。

スケール感のあるフリチュ氏の作品と、傍らに並ぶニードリングハウス氏の戦争写真
スケール感のあるフリチュ氏の作品と、傍らに並ぶニードリングハウス氏の戦争写真

女性芸術家の作品というだけでは共通性に欠けるように感じた今回の開館展ですが、多彩な作品を同じフロアで一挙に鑑賞できるのはMMK2の利点とも言えます。その特殊な展示空間とオフィス街という立地条件を利用し、さらに魅力的な展示を期待したいところです。従来のMMK、オフィスビルのMMK2、個展向きのMMK3と、それぞれ特徴的な3つの現代美術館の今後が楽しみになりました。

http://mmk-frankfurt.de

ユゴ さや香
2003年秋より、わずか2週間の準備期間を経てドイツ生活開始。縁もゆかりもなかったこの土地で、持ち前の好奇心と身長150cmの短身を生かし、フットワークも軽くいろんなことに挑戦中。夢は日独仏英ポリグロット。

 
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