昨年の秋に放送された公共放送ZDFの番組「ドイツのベスト・ベーカリー」は、1500以上の応募者の中から72のパン屋が選ばれて参加し、最高のパン職人を決めるというコンテスト番組です。この番組でフランクフルト地区代表として予選を突破し、見事決勝戦まで勝ち進んだのがベーカリー兼お菓子屋の「Graff」。ベルリンで行われたファイナルでは負けてしまったものの、伝統技術とモダンな感性を存分に発揮し、地元の建築物や名産品をパンやお菓子で表現した作品は、審査員から高い評価を受けました。
そんな全国2位の実力を誇る「Graff」は、フランクフルト西部のレーデルハイム地区にあります。チェーン展開する店が増える中、個人経営を貫き、じっくりと丁寧にパンや菓子作りに取り組んでいます。このたび、今年で開業10周年となるのを記念し、普段は関係者しか立ち入れない工房を一般開放するイベントが開かれました。
イベント当日、店舗から少し離れた工房に到着すると、ケーキやクッキー、菓子パンなどを持った職人さんたちが笑顔で出迎えてくれました。チョコレートケーキやレープクーヘン、シュペキュラティウス、アーモンド入りクッキーなどが振る舞われ、スパイスやカカオの甘い香りが漂います。お店の人の案内で工房へ向かうと、パン職人マイスターの父マンフレッド・グラフさん、菓子職人マイスターの娘レジーナ・グラフさん父娘らがパンやお菓子を作る様子を見学できます。1つ1つ手作業で作り出されるパンやお菓子は、味はもちろん、見た目も美しいものばかりです。
パンマイスター自らが薪オーブンの前に立ち、釜の温度を見ながら人気商品である黒パンの焼き加減をチェック。天然酵母を使い、時間を掛けて発酵させたパンは、表面はカリッと香ばしく、中の生地はもっちりとしていて、独特のフレーバーと深い味わいが特徴です。
薪オーブンの使い方を丁寧に説明してくれる パンマイスター、マンフレッド・グラフさん
見学者の目の前でお菓子の家を組み立ててくれたり、子どもたちにオリジナルのクッキー作りを体験させたり、パンやお菓子に関する質問にも丁寧に分かりやすく答えてくれました。私も薪オーブンの使い方を教えてもらったり、お菓子の家のアイシングやデコレーションの仕方をじっくりと見せてもらったりと、温かい雰囲気の中で楽しんで見学できました。
パンやお菓子作りの行程を分かりやすく見せてくれる
工房開放は1日限定、しかも数時間のみのイベントだったにもかかわらず、地元の人がたくさん訪れていました。全国2位の素晴らしい腕前と、1つ1つに時間と心を込めたモノ作りの精神、温かいもてなしの心を存分に感じられた見学でした。
2003年秋より、わずか2週間の準備期間を経てドイツ生活開始。縁もゆかりもなかったこの土地で、持ち前の好奇心と身長150cmの短身を生かし、フットワークも軽くいろんなことに挑戦中。夢は日独仏英ポリグロット。