ジャパンダイジェスト

最終回
首相官邸でのパネルディスカッション

渡辺・レグナー 嘉子

ドイツ健康省および移民・難民庁は今年、「移民社会における健康と介護」を重点に置くことを決め、去る3月3日、ベルリンの首相官邸において記者会見とパネルディスカッションを行いました。筆者はDeJaK-友の会の代表として招待を受け、関係者と話す機会を得ることができました。

まず、アイダン・オズオウズ移民・難民・統合担当相(社会民主党=SPD)が、「ドイツはこれまで、移民や移住者を受け入れてきた国として、また今後も外国からの人材を必要とする国として、その人たちが年を取り介護を受ける際に、一般のドイツ人と同じように平等な介護を受ける権利がある。そして、ドイツの健康保険や介護保険、年金なども、移民の背景を持つ人々でも平等に適用されるものであるが、実際にはドイツの保険システムの恩恵を十分受けきれていない。そのことを重視し、対策に乗り出すつもりである」と述べました。

また、高度経済成長期のドイツへ、移民第1号として来られた人ががんを患い、本来ならドイツの保険から治療費が出るはずだったにもかかわらず、そのことを知らずに母国へ帰って自費で治療を受けたという例を挙げ、外国から移り住んだ人が正しい情報を得ることがいかに大切であるかについても言及しました。

さらに、多くの外国人が住む現在のドイツの状況では、移民の背景を持つ若い人々、また2世のバイリンガルスキルは国の貴重な人的資源であり、彼らを特に介護の領域で確保していくことが重要な課題であること、また、現在ドイツ国内にいる高齢の移住者は約160万人(64歳以上、日本人を含む)だが、15年後には280万人になることにも触れました。

老後

続いて討論会が行われました。ドイツの国策の方向性としては、概して外国人には好意的、協力的であると思われ、参加した私は安堵の念を抱きました。しかし、トルコ人を対象に訪問介護の会社を経営するヤスミン・アルバビアン=フォーゲル女史の発言には驚かされるものがありました。女史は、「移住者への介護に必要なのは、その人たちの文化的背景に配慮した介護ではなく、個人の生活リズムや要望に合った介護であり、同国人による介護など希望してはいない。要介護度が3にもなれば、言葉さえ分からなくなる」と発言したのでした。

多くの社会福祉団体や外国人グループは、外国人には外国人に合った介護文化を準備しようとしてきました。一方で、このような全く逆の姿勢の福祉団体の存在も知っていました。この発言が、ドイツに住む外国人全体の意見とみなされ、今後、政府の方針に影響を与えるのは納得できないことです。当会などは、言葉や食事など、要介護者の文化的な問題を実感するグループです。時間切れのため、質疑応答の時間はなかったものの、フォーゲル女史と移民・介護問題の政府担当官と個別に話し、身体的障害や認知症がある日本人には、日本食を調理できる人による援助や日本語によるサポートが必要であること、街角で自国の食品が簡単に手に入り、介護職に就く同国人も多いトルコ人とは事情が異なることを説明しました。女史は、「トルコ人は人間関係が非常に密接に入り組んでおり、自分の家の「恥」をほかのトルコ人に知られることを極端に恐れるため、同じ地域に住むトルコ人の介護を受けたがらないという意味で言った。もちろん、母語による介護、その人に合った食事の必要性は大きい」と訂正し、次回からの発言では、誤解が生じないように説明すると確約してくださいました。

移民問題というと、大勢多数を占めるトルコ人グループの発言が重視されることが多いため、今後は私たちのような少数グループの希望や要求も積極的に、かつ伝え続けていくことの重要性を実感した行事でした。

このコラムの連載は、今回をもって終了いたしますが、ドイツでの老後に関するご意見やご質問などがありましたら、DeJaK-友の会までお問い合わせください。

渡辺・レグナー 嘉子
在独邦人の高齢時の問題に積極的に関わっていくことを目指す「DeJaK-友の会」代表。著書に日本語教科書『Japanisch, bitte! 日本語でどうぞ』『ドイツ会話と暮らしのハンドブック』他。会の講演会(6月3日「心筋梗塞について」「30日元気で食べ続ける為に」各々14時から日本クラブにて )。
DeJaK-友の会((www.dejak-tomonokai.de)

 
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