例年バタバタと過ごすことの多い12月ですが、昨年の終わりはいつの間にか過ぎ去り、静かに2021年がやってきました。冬休み中は、どこかに出かけるということもなく自宅で家族と過ごしていたのですが、大みそかには子どもたちと一緒にクッキーを焼いて、お世話になっている人たちの家に窓越しのご挨拶へ。そのうちの一人で、仲良くしてくれているおばあさんは不在だったので、ドアの前にメッセージを残しました。数日後、おばあさんが大みそかから入院しているということを聞き、高齢な方なので心配しています。彼女が元気だったころは、よくうちに来て子どもたちに本を読んでくれました。
『はるかな国の兄弟』のドイツ語版と日本語版
この冬休みは、家でのんびりしながら、子どもたちと『はるかな国の兄弟』という本を読みました。『長くつ下のピッピ』で知られるスウェーデンの児童文学作家、アストリッド・リンドグレーンによって書かれたこの物語は、ドイツでは『Die Brüder Löwenherz』という題名で出版されています。僕とパートナーは、日本語版とドイツ語版を一文ずつ朗読しながら、毎日少しずつ本を読み進めていきました。この本では、病気のために死んでしまった兄弟が「はるかな国」で経験する冒険が描かれています。子ども向けに書かれたものでありながら、物語に登場する死後の世界は、大人にとっても感慨深いもの。僕自身も、毎晩の朗読の時間が待ちきれませんでした。
ハルツ山地の雪景色
昨年、新型コロナウイルスの感染対策措置として、他人との接触が制限される暮らしが始まり、幾度か身近な人たちとの別れを経験しました。それらの人は、新型コロナウイルスに感染して亡くなったのではないのですが、この状況下では面会も叶わず、その知らせを受け取るだけ。夏には僕の父も他界しましたが、最期はスマートフォンの画面越しの会話でした。感染者が増えている時期だったので、父に会いに日本へ行くことはできなかったのです。
パートナーの祖母が教えてくれたレシピのクッキー
これまでも大切な人との唐突な別れを経験しましたが、別れの予感があれば会いに行くこともできたし、心の準備も多少はできたように思います。他愛もない会話が寂しさを癒してくれることもありました。しかし、人との接触が制限されている今は、寂しさを抱えながら旅立つ人がいて、見送る方もまた、喪失感を受け止めることが難しいのではないのでしょうか。だからこそ余計に、『はるかな国の兄弟』で描かれた死後の世界に想像力が掻き立てられたのかもしれません。そんな思いを抱きながら、新年はハルツ山地を歩きました。早朝の登山道には人が少なく、雪をためた木々はいつもより美しく感じられました。
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
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