ジャパンダイジェスト

森の中での宝探し キノコと出会う秋

秋が深まるドイツの森。倒木、落ち葉、茂みの陰。普段は見ない暗部に注意を向けながら、ゆっくりと歩みを進めます。足の裏には、水分をたっぷり含んだ土の柔らかさを感じます。遠くの方で子どもたちがはしゃぐ声に混ざって、シカの鳴く声が聞こえたと思ったら、足下で探していたものと出会いました。見た目、手触り、形をゆっくりと確認して、傷つけないようにカゴに入れます。人生で初めてのキノコ狩り体験でした。

10月の初め、ブラウンシュヴァイク北側にあるギーフホルン(Gifhorn)という地域に車で向かいます。今回はキノコ狩り経験者の友人家族が、初心者の私たちをキノコ狩りに招待してくれました。通常、彼らがお気に入りのキノコ狩りスポットは人に教えないそうで、とてもありがたい機会です。

ニセイロガワリ。直径12センチぐらいが食べごろニセイロガワリ。直径12センチぐらいが食べごろ

今回僕たちが収集するキノコは「ニセイロガワリ」(Maronenröhrling)。秋になると欧州、北米、カナダの森に生えます。見た目は「ポルチーニ茸」と呼ばれるヤマドリダケと似ており、キノコの傘は濃い茶色、柄は白、表面は光沢があり、傘の裏には黄色い泡があるのが特徴です。この泡は管孔と呼ばれるチューブ状の器官で、胞子を形成するための表面積を増やす役割があるのだとか。森にはもちろん毒性のあるキノコも生えているので、ニセイロガワリの特徴を覚え、それ以外は集めないというルールで収集を始めました。

子どもたちはすぐにキノコ探しの名人になりました。スイスイと歩いて行っては、うれしそうに「あった!」と叫んでいます。最初、僕は見た目だけでニセイロガワリかどうかを判断することができず、傘の裏側の泡を確認するために間違ったキノコを折るたびに、申し訳ない気持ちになっていました。ニセイロガワリは一カ所に群生しておらず、単体で生えています。直近で人が踏み込んでいなさそうな森の奥へ進んでいくと見つかる可能性が高く、一つ見つけると、その近くでもう一つに出会うことが多かったです。ニセイロガワリ以外のさまざまなキノコに出会ったり、森に住む生き物の気配を感じる楽しい散歩でした。

管孔はスポンジのような手触り管孔はスポンジのような手触り

家に帰ってからキノコの表面を洗い、泡を取り除きます。ニセイロガワリは、傷つけられたり、切られたりすると青く変色する特徴があるため、洗い終わった姿を見ると、触った部分が青くなっていました。表面にはヌルヌルした粘りが残っていて、とても食欲をそそる見た目ではありませんが、とりあえずフライパンでバターと炒めてみました。いい香りが広がったところで醤油を垂らして食べてみると、肉厚のエリンギにぬめりのあるナメコを合わせたような新しい食感。味も良かったです。ほかの食材との相性も抜群で、オムレツに入れたり、スープに加えたりしておいしくいただきました。探して楽しく、食べておいしい、新しい家族行事ができました。再びニセイロガワリと出会える来年の秋が、今から楽しみです。

国本 隆史(くにもと・たかし)
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
takashikunimoto.net
 
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