11月半ばから2週間、ハノーファーで一般参加者対象の学術イベント「Wissen!(=知る)」が開かれました。市や研究所、学校、財団、劇場、その他各種団体が運営に携わり、自然科学をメインに、気候保護や文化、音楽、人間など様々なテーマで、子どもから大人まで対象ごとに分かれた150の催し物を市内各所で実施。楽しみながら学術に興味を持てるよう工夫されている多彩なプログラムの中から、私は市庁舎とライプニッツ・ハノーファー大学で行われたものを見に行きました。
市庁舎で行われたプログラムのオープニングには、数学の公式をラップで歌う映像をYouTubeで流し、反響を呼んでいるドレスデン大学の学生ヨハン・ボイリッヒが登場し、大喝采を浴びました。直角三角形の一番長い辺の2乗は残り2辺をそれぞれ2乗して足した数字と同じというピタゴラスの定理をノリノリのラップで分かりやすく解説。球に関する様々な公式を歌ったものもありました。今や彼は10万人のファンを抱える有名人で、毎日のように「あなたのラップで公式を丸暗記し、テストで高得点が取れました」というメールが届くとか。市庁舎ではこのほか、「2020年の世界」をテーマに未来を先取りしたアイデアの展示が行われ、この先どうなるか分からないけれど、技術は進歩し、良いことがたくさん待っているはず! というメッセージが伝わってきました。
一方、大学では15日(土)18:00~24:00に「学術の夕べ」が開かれ、全学部を解放して200もの展示や実験、講演会が行われました。火と炎の実験では、素材によって燃焼温度が違うことや、フライパンの油に火が付いた場合に水をかけてはいけない理由などをサシャ・スクルプケ教授がユーモアに満ちた語り口と迫力ある実験で説明し、観客を魅了していました。
サシャ・スクルプケ教授の実験で立ち上る炎
本校舎の大ホールではフランツ・レンツ教授が合気道を実演しながら、人体とエネルギー、分子について解説。後半は合気道を試してみたいと申し出た観客が15人ほど舞台に上がりました。しかし、参加したのは女性と子どもばかり。男性は、はたして臆病なのかどうなのか……女性のたくましさと子どもたちの純粋な好奇心を垣間見た瞬間でした。
大ホールで披露された、フランツ・レンツ教授と学生たちによる合気道
学術イベント「Wissen!」は、参加者たちに周囲の環境や世の中の仕組みについて考えるきっかけを与えてくれました。専門家の話を直接聴けるというのも貴重な機会。その道に夢中で取り組む人たちの熱意が周囲に伝染し、巻き込んでいきます。何気なく暮らしているように感じられる私たちの日常は、先人たちの知恵と技術の上に成り立っており、実は何事も奥が深いのだと改めて思いました。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。