ハノーファーのライプニッツ大学数学・物理学部では、一般向けの講演会を定期的に開いています。先日、ミュンヘン大学のハーラルド・レッシュ教授が講演を行うということで、聴講しに行ってきました。同教授は公共放送ZDFの自然科学番組「Leschs Kosmos(レッシュの宇宙)」を持つなど、人気の天文物理学者。
「ビッグバンと量子力学」と題する講演は、700人収容の講義室を満席にし、それでも入りきらない人は別室でライブ中継を視聴しました。
シンプルで分かりやすいレッシュ教授の講演
世界の始まりを量子力学で説明する、というのがテーマでした。世界の始まりがあり、今私たちはここにいます。では、世界はどうやって始まったのか。自然科学は哲学に繋がるのですね。自然の法則は数学や物理である程度説明できますが、すべては解明できません。そして、「世界の始まりの前には何があったのか」という新たな問いが生まれます。
「7歳の息子がいるのですが……」と始めた質問者にはすかさず、「宇宙飛行士になりたいんだろう。僕もそうだった。でも無理だったから、天文学者になったんだ」と話します。その後もいろいろな人が質問をしましたが、教授は8歳の男の子にも丁寧に時間をかけて説明していました。その真摯な姿に、人気の秘密を実感。2012年に、ドイツの大学教員ナンバーワンに選ばれたのもうなずけます。
講演するレッシュ教授
ドイツでも大学間の競争は激しくなっており、国からだけでなく、産業界などからも資金援助を得なければなりません。「良い研究には時間がかかる。米国の政治家ベンジャミン・フランクリンは『Time is money.(時は金なり)』と言ったが、あれは『Time is honey.(時は蜂蜜なり)』の間違い」と、研究者として現在のシステムを批判する場面もありました。
内容をすべて理解したわけではないけれど、ユーモアたっぷりのとても面白い講演でした。取っ付きにくい量子力学も、このように習えば面白く感じます。量子力学とは、「もし……で……なら、……となる」という理論で構築されているそうです。量子力学により、宇宙の始まりや私たちが存在する理由が説明できるのです。
最後にこんな質問が出ました。「宇宙の真ん中はどこですか」。答えは「今、あなたのいるところ」。私のいるところ、あなたのいるところ、すべてが宇宙の真ん中。この答えをもって、講演は終了となりました。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。