普段生活している身近な地域には、まだ知らない興味深い歴史が隠されていることがあります。ライプツィヒ北西部の美しいアウエン湖(Auensee)はまさにそのような場所の一つです。今回はアウエン湖の歴史と魅力を紹介したいと思います。
現在の自然豊かなアウエン湖の風景からは想像しにくいですが、今から100年前、アウエン湖の周りにはかつて欧州最大といわれた遊園地「ルナパーク」(Luna Park)が存在しました。20世紀初頭に米国のコニー・アイランドにルナパークという施設がオープンしてから、ルナパークは遊園地一般を意味するようになり、世界中にたくさんのルナパークという名前のついた施設ができたのです。
Luna Parkの絵葉書
ライプツィヒのルナパークの建設は1910年代に始まり、レストランや列車、ジェットコースターなどが造られました。1910~20年代にかけてにぎわいをみせたルナパークですが、1929年に始まった世界恐慌の影響を受け、1930年代にはメインのレストランを残して遊園地の大部分が取り壊されました。
第二次世界大戦後の東ドイツ時代には、湖沿いに「ピオニールアイゼンバーン」(Pioniereisenbahn)という2キロほどの鉄道が設けられました。「Pionier」とは一般的な「開拓者」という意味ではなく、旧東ドイツの社会主義教育の一部として存在した国営の青少年組織を表します。ピオニールアイゼンバーンの運営には、この組織に所属する子どもたちが携わりました。ルナパーク時代の華やかさはありませんが、アウエン湖は当時も労働者がひとときの休暇を楽しむ場所として親しまれたそう。ライプツィヒに長く住んでいるお年寄りの中には、東ドイツ時代にアウエン湖で過ごした思い出を語る人たちもいます。
現在のアウエン湖
アウエン湖には、ライプツィヒ中央駅からトラム1本、片道30分ほどでアクセスできます。都市の喧騒を逃れ、自然の中でリラックスできる身近な場所として愛されています。なお現在では「ピオニールアイゼンバーン」は、「パークアイゼンバーン」(Parkeisenbahn)に名前を変え、非営利団体によって運行されています。運賃は大人4ユーロ、子ども2.5ユーロで、大人が乗っても楽しめますよ。また、アウエン湖の周辺や、近隣を流れるヴァイスエルスター川沿いはサイクリングに最適で、シーズンになると野生のエルダーフラワーやベリー類、リンゴなどが採れます。
周辺エリアでベリー採集
ライプツィヒや周辺地域にお住まいの方も、ライプツィヒに旅行で来られる方も、ぜひアウエン湖にも足を延ばしてみてはいかがでしょうか。
IT系の翻訳者・プログラマー。オーストリア、インドを経てドイツへ。ライプツィヒには2016年より在住。三度の食事と、手に入らない食材を自分で育てるのが何よりの楽しみ。古巣のアート分野に戻りつつある。