細枝にエメラルド色の若芽が顔を出す4月から木が再び裸になる10月までの期間、ドイツの至る所にあるビール醸造所で、施設の見学ツアーが行われます。ドイツビールの奥深い歴史と文化に惚れ込んでしまった私は、今年もたくさんの醸造所を訪れました。今回は、中でもお気に入りの「アンデックス修道院醸造所」をご紹介しましょう。
この醸造所は、ミュンヘン中央駅から電車とバスで1時間ほどの場所にあります。緑豊かな林と小さな湖が点在するミュンヘン郊外の丘の上に立つアンデックス修道院付属の醸造所です。SバーンのHerrsching駅から醸造所までバスが出ていますが、草原と森の小道を1時間ほど散歩しながらたどり着くこともできます。これからの季節、秋の足跡を聞きながら醸造所見学に出掛けるのも良いかもしれません。
ビアガーデンでは、のびのびと広がる空と牧草地を
眺めながらビールが楽しめます
修道院の歴史は古く、最初に文献に登場するのは1080年、日本なら平安時代の後期です。醸造所の始まりは1455年。ビール好きの文学者・軍医として知られた森鴎外も、ドイツ留学中の1886年にここを訪れています。
修道院は、祈りと労働を神への奉仕と考えたベネディクト派の建築らしく、生産性に優れた造り。教会を丘の頂点に、ビール醸造所、ビアガーデン、家畜小屋、精肉所、修道院が療養所も兼ねていた中世の名残の薬草園が配置されています。アンデックスは環境に優しい素材のみを使用した質の高いビールと畜産物で知られています。
醸造施設の見学は、毎週火・水曜の11時から1時間程度です。内部は古めかしい木造の建物からは想像できないほど清潔で、近代的な設備が並んでいます。中に入ると、麦の汁を煮る甘い香りが漂ってきました。麦の汁はこの後、ホップを加えてひと煮立ちされます。冷めたところで酵母を入れると、糖分がアルコールと炭酸ガスに分解されてビールになります。それを熟成させて完成。最後はベルトコンベアーに乗せて瓶詰めされる工程を見学できます。大人の社会科見学です。ピカピカのコンピューターの上に十字架が掲げられているのには、思わず笑みがこぼれてしまいました。技術が進歩しても神様への祈りは欠かせないようです。
見学後、見晴らしの良いビアガーデンで頂く出来立てのビールと健康的な畜産物を使った料理は最高です。もちろん見学期間中以外もビアガーデンはオープンしているので、美味しいビールに料理、雄大な眺望を目当てに多くの人が訪れています。このほかのミュンヘン近郊のビール醸造所については著者のブログをご参照ください。
最新の機械を使っていても、人間の勘と神様の加護は欠かせません
日本地ビール協会ビアテイスター。日本での7年間の看護師生活の間にビールの魅力に取り付かれ渡独する。現在はミュンヘンに拠点を置いて美味しい情報を発信中。「ビアテイスターのドイツビール&ワイン紀行」http://gogorinreise.blog34.fc2.com/