ドイツの中では都会に位置付けられるシュトゥットガルト。この町は、若い世代の現代アートに触れる機会に恵まれています。私も今年に入ってから、すでに様々な展覧会に出掛けました。
シュトゥットガルト近郊の町エスリンゲンにある市立アートギャラリー「VillaMerkel」(www.villa-merkel.de)では、しばしばシュトゥットガルト造形美術大学の学生による作品が展示されています。1月の展覧会のオープニングでは、韓国人アーティストによる刺激的なパフォーマンスが披露されました。それは、観客が見守る中、頭を水槽に突っ込み、そこで泳いでいる金魚を飲み込み、それからまた吐き出すという大胆なもの。東京藝術大学での短期留学を経て、最近ドイツに帰国したばかりという作者は、日本で受けたインスピレーションをこのパフォーマンスのコンセプトにし、地震や津波などの自然災害の多い日本に生きる生命の不安と、自然との戦いを表現したそうです。金魚は生き物の象徴で、アーティストは津波を演じていました。
同ギャラリーでは今、「ゴールドラッシュ」と称した金にまつわる展覧会が開かれています。さらに離れの「駅員舎(Bahnwärterhaus)」では、シュトゥットガルト芸大生の個展も開催中。写真や舞台照明などによる空間インスタレーションはかなりレベルが高く、お勧めです。
「VillaMerkel」に展示されていた空間インスタレーション
そしてつい最近、シュトゥットガルト市労働局でも一風変わった展覧会がありました。これもアート専攻の学生たちによる展示。無機質なオフィスビルに絵画や彫刻、インスタレーション、写真、ビデオアートなどが展示され、非日常的な空間が生まれていました。芸術と労働局という組み合わせは、芸術だけで生きていくことの難しさと、仕事を仲介する場としての労働局の役割を皮肉っているかのようです。展覧会の最終日には、労働局の職員とアーティストたちによるディスカッションも行われていました。この展覧会の最大の目的は、それぞれの世界に生き、普段は触れ合うことのない人々に接点を提供することで、シュトゥットガルトでは前例のない試みだったそうです。皆、自分たちの成果に満足しているようでした。
無機質な労働局の一室に出現したビデオアート
アートと言えば、毎年恒例の「Lange Nacht der Museen(ミュージアムナイト)」(www.lange-nacht.de)が3月16日(土)に予定されています。市内の大小様々な美術館のほか、約90ものギャラリーが夕方19時から翌朝2時まで一斉にオープン。上記の公式ウェブサイトに9つのお勧めルートが掲載されています。すべてを観ることは不可能ですが、数カ所に絞れば、効率良く美術館巡りができると思いますよ。
中国生まれの日本国籍。東北芸術工科大学卒業後、シュトゥットガルト造形美術大学でアート写真の知識を深める。その後、台北、北海道、海南島と、渡り鳥のように北と南の島々を転々としながら写真を撮り続ける。写真ブログ「その時ひとコマ」http://wasistlos.exblog.jp