最近ドイツで電子タバコを口にくわえている人をよく見かけます。加熱式タバコや電子タバコは、禁煙の手助けになるのでしょうか? また、体への影響や害は、通常のタバコに比べて少ないのでしょうか?
Point
- 加熱式タバコは葉タバコを用います
- 電子タバコは液体を用います
- 煙は出ませんが、健康への影響は同じです
- 周囲の受動喫煙の問題も同じです
- 新型タバコは禁煙への手助けにはなりません
タバコの基礎知識
加熱式タバコと電子タバコ
タイプ | 使用法 | ニコチン |
加熱式タバコ | 葉タバコを加熱 | あり |
電子タバコ | リキッドを加熱 | あり/なし |
紙巻タバコ | 葉タバコを燃焼 | あり |
● 南米原産のナス科植物
タバコ(Tabak)は南米のアンデス山脈での栽培が起源となるナス科の植物です。15世紀末に現地の人々が使用したのをコロンブスが見て持ち帰り、徐々に欧州に広がったといわれています(京都府立医科大学雑誌、繁田雅子先生の「タバコ学事始」より)。
● タバコの嗜好性
タバコの葉には、依存性があり嗜好性の強いニコチン(Nicotin)が含まれています。ニコチンの「ニコ」は、フランスにタバコを紹介した人物、ジャン・ニコに由来しています。
● タバコの健康への害
タバコによる健康への害は、ニコチンは血管収縮、脈拍増加、血圧上昇をきたすため狭心症や心筋梗塞のリスクを高めます。日本人の男性の肺がんの7割はタバコが原因といわれ(国立がん研究センターの調査)、喉頭がんとの密接な関係も指摘されています(日本呼吸器学会)。
● 受動喫煙の問題 Risiken für Dritte
喫煙者(Raucher)だけではなく周囲の非喫煙者(Nichtraucher)にも、同様の悪影響を及ぼします。胎児はお腹の中にいるときから母体が遭遇する受動喫煙の影響を受けます。
タバコの成分
● ニコチン濃度の表示は?
市販のタバコに表示してあるタールやニコチン濃度は、タバコ1本に含まれる量ではありません。世界共通のISO基準に従った自動喫煙機により、一定の条件下で測定された値です(日本では財務省通達に従った方法)。
● タバコ煙の有害成分
ニコチン、タール、一酸化炭素に加え、ほかにも発がん性物質を含む20種類近くの健康への有害物質が含まれています(厚生省報告書「喫煙と健康」、2016年)。
● 100種類以上の添加物 Zusatzstoffe
自然から採取したはずのタバコの葉の色や風味が同じで、ニコチンやタールの含有量まで一定なのを不思議に思う方がいるかもしれません。JTが公表している添加物リストには100種類以上の添加物が挙げられています。最大使用量のパーセントを単純に加算すると製品の20%超が添加物ということになります。
新型タバコ
新型タバコの特徴
特徴 | 煙が出ない |
タールの削減 | |
一酸化炭素が減る | |
ニトロソアミンなどが削減 | |
留意点 | エアロゾルが見えず、受動喫煙のリスク |
ニコチンが含まれるものが多い | |
青少年の喫煙につながりやすい |
● 加熱式タバコ Tabakheizsystemen
葉タバコ入りの製品(カートリッジ)を電気で300〜350℃に加熱し、発生したエアロゾル(気化したニコチンなど)を吸引するもの。600〜800℃で燃焼させる紙巻タバコに比べ、有害物を減らすと宣伝されています。
● 電子タバコ E-Zigarette
ニコチンの入った溶液(リキッド)を40〜50℃で加熱して吸引するタイプと、ニコチンの入っていない溶液を吸引するタイプの2種類があります。市場に出回っている多くはニコチン入りですが、日本国内ではニコチンが入っていない(とされているもの ※後述)だけが販売されています。
● ニコチン非含有リキッドのニコチン含有
日本で流通する電子タバコ103製品についてニコチン分析を行ったところ,半数近くにニコチン含有が認められたとの報告(国立保健医療科学院の成分分析結果より)もあり、注意が必要と思われます。
新型タバコの有害成分
加熱式タバコのエアロゾルに含まれる成分例
ニコチン | 嗜好性、依存性 |
ホルムアルデヒド | 発がん物質 |
アクロレイン | 劇物 |
ベンズアルデヒド | 刺激性物質 |
香料、その他 | ー |
(2017年のJAMAの論文より引用改変)
● 紙巻タバコと同じニコチン摂取
ニコチン摂取量は紙巻タバコの約8割、しかし総量としてのニコチン摂取を減らすことにはつながらないと報告されています(2016年イギリスの医学雑誌「Lacet Respir Med」および2018年のBMJの論文より)。
● ほかの有害物の発生は?
タバコの葉を燃やさないため、一酸化炭素とタール成分の発生が抑えられます。一方、発がん性のあるホルムアルデヒド、アクロレインなどは、少ししか減りません(2017年の米国雑誌「JAMA」および前述の2018年のBMJの論文より)。
● 2〜3m先まで飛散
煙が出ないから害はないと誤解されがちですが、実際には発生するエアロゾルに有害物が含まれています。エアロゾルは2〜3m先まで飛散するため(2017年の日本肺癌学会)、周囲の受動喫煙も避けられません。
健康機関の見解
● WHO報告書の勧告
公共施設内でのニコチンを含む電子タバコの使用を禁止する勧告(2014年「タバコ規制に関する報告書」)が出されています。また、ニコチン含有の有無を問わず、禁煙エリアでの電子タバコの使用を法律で禁じるよう勧告(2016年「電子タバコに関する報告書」)も出されています。
● 日本呼吸器学会の見解
加熱式タバコや電子タバコからのエアロゾルは周囲に拡散するため、従来の燃焼式タバコと同様にすべての飲食店を含む公共の場所や交通機関での使用は認められない、としています。
● EU・ドイツでは?
2014年からEU規制に加熱式タバコと電子タバコが加えられました (Directive 2014/40/EU)。ドイツでも新型タバコ製品がニコチン依存や健康被害が広がる起点にならないよう18歳未満の青少年への販売、使用を禁止するべきとしています(ドイツ連邦リスク評価研究所、BfR)。
新型タバコは安全ですか?
● 細胞傷害性は同じリスク
紙巻タバコ、加熱式タバコ、電子式タバコから発生したエアロゾルの気道の細胞に及ぼす障害性は同じだったとの報告があります(2019年の欧州呼吸器学会誌の論文)。
● 妊娠中・授乳中は禁止
胎児や新生児には紙巻たばこ同様の健康上の悪影響を与えると考えられています。そのため、妊娠中や授乳中の喫煙はNGです。
● 家庭内では家族へのリスクが
自宅の屋内で使用することは、低濃度ながらも家族がニコチンやアルデヒド類などの発がん性物質に長期にわたりさらされるリスクを伴うことになります。その点も考慮しましょう。
● 禁煙への有用性は疑問
新型タバコで禁煙できるというのは誤解です。禁煙に取り組んだ約800名を調査した日本の国立がん研究センターは2017年に、電子タバコを使用しても有用性がなかったと発表しています。