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脳動脈瘤とくも膜下出血の予防

質問:昨年末、母が脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)の破裂による「くも膜下出血」で入院しました。脳動脈瘤とは、どんな病気ですか。

Point

  • 脳動脈瘤は、脳の血管にできるコブのことです。
  • 破裂すると、くも膜下出血を生じます。
  • くも膜下出血は生命に危険を及ぼす可能性があります。
  • 脳動脈瘤はMRA検査で発見できます。
  • 脳動脈瘤は手術治療で破裂を予防できます。
  • 喫煙やアルコールの多飲は破裂のリスク因子です。

脳動脈瘤って?

● 脳の血管にできる「コブ」
脳血管の壁の弱い部分が膨らんでできる「脳動脈のコブ」が脳動脈瘤(Hirnaneurysma)です。多くのケースで無症状に経過しますが、時としてくも膜下出血(Subarachnoidalblutung=SAB)や脳梗塞の原因になります。

● 脳動脈瘤の種類
血管の一部が風船のように膨んだ「嚢(のう)状動脈瘤」と、血管の壁の一部が裂けて広がる解離性脳動脈瘤があります。

● どんな人の脳に多く現れる?
30歳以上の成人の頻度は3.2%(約30人に1人)です。遺伝性があり、家族にくも膜下出血を発症した人が多く(3.4倍)、女性は男性の1.6倍(50歳以上では2.2倍)の頻度で発見されています。また、喫煙の習慣がある人、高血圧の人、アルコール多飲者により多く発症します(2011年発表論文「21カ国の資料に基づくメタ解析」より)。脳動脈瘤が破裂し、くも膜下出血となるリスク要因も同様です。

脳動脈瘤破裂のリスク因子

● いつからできるの?
脳動脈瘤が見付かるのは40歳くらいからです。長年にわたり血管の壁の弱い部分に血流の負荷が加わることで、コブができると考えられています。

●コブのできやすい部位
嚢状動脈瘤が一番できやすい部位は、大脳動脈輪の脳血管が二股に分かれる血管の「分岐部」です。1カ所だけではなく、複数の箇所に見付かることもあります。

● 破裂する割合は?
日本人の脳動脈瘤の破裂率は1.9~2.7%で、その結果、くも膜下出血となる頻度は 、欧米の約2倍と言われています。 脳動脈瘤のサイズが大きいほど破裂しやすく、大きさが25mm以上の巨大な脳動脈瘤の破裂率は8%にもなります。破裂する割合は脳動脈瘤の部位によって異なります。

破れやすい脳動脈瘤

くも膜下出血の基礎知識

● どんな病気?
突然バットで殴られたような、激しい頭痛を伴って発症します。吐き気、嘔吐、時には意識障害や手足の麻痺を伴います。脳血管障害全体の約8%、突然死の約6.6%を占めます。原因の約80%は脳動脈瘤の破裂によるもので、脳の表層を覆う「くも膜」で囲まれた「くも膜下腔」に出血することから「くも膜下出血」と呼ばれます。

くも膜下出血の症状

くも膜下腔とは?

● 生命の危険と後遺症について
症状を残さずに改善するのは、発症した患者のうち3分の1のみです。残りの3分の1は後遺症として神経障害を残し、もう3分の1の人は命を落とすという重篤な病気です。最初から意識障害を伴っていた場合は、予後不良とされています。

くも膜下出血発症率と予後

● 救急治療が必要
発症したら直ちに入院し、脳外科手術により脳の出血を取り除きます。そして、破裂した脳動脈瘤にクリップを掛けて再破裂を予防します。これにより、脳浮腫などにより脳が腫れて圧迫される脳圧亢進、脳血管の収縮による脳梗塞も予防されます。

脳動脈瘤を見付ける検査

● MRAによる画像診断から
ほとんどの脳動脈瘤は、無症状のまま気付かないうちに経過します。そのため、磁気共鳴血管撮影( ドイツ語でMagnetresonanztomographie=MRT、日本ではMRI)を用いた血管撮影(Magnetresonanzangiographie=MRA)が、診断に有用です。

● 脳動脈瘤を見付ける利点と欠点
症状が現れていない未破裂脳動脈瘤を見付けることにより、破裂を防ぐ治療を受けたり、生活習慣の改善をより積極的に行ったり、具体的な対策が取れます。しかし一方で、破裂する頻度が低いとは言え、いつ破裂するか分からないという大きな不安からストレスを抱え込む場合もあります。

● ドイツの疾病保険が使えるとは限らない
無症状の健康な人が、脳の病変を疑わせるに足る症状や理由もなく脳ドックを受ける場合、高額なMRA検査の費用がドイツの疾病保険でカバーされるとは限らない、ということにも留意しましょう。

脳動脈瘤を指摘されたら

● 禁煙、血圧の管理が大切
破裂のリスクを減らすため、まずは禁煙です。血圧の管理を徹底し、愛酒家は飲み過ぎを避けましょう。また、週3回以上運動をする人は破裂の割合が少ないことが報告されています。定期的に体を動かすことも大切です。

● 予防のための治療を勧められるのは?
1) 大きさが5~7mm以上の未破裂脳動脈瘤、2) 症状を伴った脳動脈瘤(症候性脳動脈瘤)、3) 破裂リスクの高い部位や形の脳動脈瘤。日本脳ドック学会では、これらに対して予防的な治療の検討を推奨しています。具体的な治療方法は下記の2つが一般的です。

脳動脈瘤の治療

● 予防治療法1:クリッピング術
脳外科にて開頭し、動脈瘤の首(ネック)の部分に洗濯バサミのようにクリップを掛けて、血流が脳動脈瘤に入り込むのを防ぐ。従来から採用されてきた手法です。

● 予防治療法2:コイル栓塞術
開頭せずに、血管から入れたカテーテルという管を利用して、脳動脈瘤の内部にプラチナ製のコイルを詰めて、固める。こちらは、比較的新しい方法です。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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