胃で何が起きているのですか。
胃の中にある胃液には塩酸と消化酵素が含まれており、私たちの食べたものを消化する重要な働きをしています。一方、胃壁は粘膜で保護され、胃液による胃自身の消化を防いでいますが、この胃粘膜に障害が起きると胃壁に穴があいてしまうことがあります。胃に組織欠損ができる場合を「胃かいよう」、その先の十二指腸球部の場合を「十二指腸かいよう」と呼びます(図1)。一般に、胃かいようは中年以降に多く、十二指腸かいようは若い人に多くみられます。男性が女性の約2倍の発症率となっています。
なお胃炎(びらん)は、病巣が胃壁中にある粘膜筋板という層を越えない深さの炎症で、胃かいようより症状の軽いものです。
かいようができる原因は?
胃かいようは、胃酸などの胃粘膜の攻撃因子と、それに対する防御因子のバランスが崩れるために起こります。バランスが乱れる原因としては、ストレスや薬剤(痛止めなど)、さらにピロリ菌があります。過度なストレスでは、攻撃因子の胃酸の分泌が亢進するため、また痛止め薬は胃粘膜の防御力を弱めるためです。ピロリ菌は、胃内で様々の障害物質をつくり、胃かいようの下地となる胃炎を引き起こします。
ドイツで暮らし始めてからなんとなく食欲がありません。
胃かいようは昔から心理的なストレスで生じる病気の代表と考えられてきました。緊張すると軟便や下痢になるとか、胃のあたりが重くなるとか食欲がなくなるという方は少なくありません。過大なストレスが加わると、脳の視床下部から全身に様々な指令が出され、ストレスホルモン分泌や消化管運動をコントロールしている自律神経系への影響が出るためです。
ドイツでの生活は、日本の都会では望めない広い住居や時間的なゆとりなど快適な面もあり、ストレスどころか生活を堪能している方も多いと思います。しかし、海外生活は一旦イヤだと思い込むと大変なストレスに変わります。暗く長い冬の単身赴任、ドイツ人上司とのトラブル、狭い日本人社会での付き合い、子供の教育の悩み、日本への郷愁など原因は様々です。胃や十二指腸は本来、多少の暴飲暴食にも耐えるタフな臓器です。しかし、案外デリケートな面もあり、弱点は肉体的、精神的ストレスに弱いことです。
最近よく聞く言葉ですが、ピロリ菌って何ですか?
強いストレスで胃粘膜が損なわれても多くはびらん程度で済みますが、ピロリ菌に感染すると胃粘膜の防御機能が低下し、ついにかいようができてしまいます。ピロリ菌は、慢性の消化性胃かいようにかかわる細菌で、正式名称はヘリコバクター・ピロリ。胃の出口(幽門・ゆうもん)に多く見つかるらせん状(ヘリコ)の細菌(バクター)という意味です。胃酸の届きにくい胃液の粘液層に棲みつき、しかも自分でアンモニアというアルカリ性の物質を生成して胃液の強い酸から自身を守っています。
夏バテに効く食材はありますか。
専門書には豆腐、しし唐辛子、山芋、もやし、枝豆のほか、食欲を刺激するショウガ、ワサビ、コショウなどの香辛料、シソ、ミョウガ、ネギなどの香味野菜などが紹介されていますが、最も大切なことは、1日3食を食べること、そして冷やし麺など炭水化物のみだけではなくタンパク質、ビタミン、ミネラルなどをバランス良く取ることです。食欲 がなくて肉類を食べられない時には、 良質のタンパク質として豆腐がお薦めです。
ピロリ菌と胃かいようの関係は?
日本人の胃かいよう患者の65〜80%、十二指腸かいよう患者の90%以上がピロリ菌感染していることが分かっています。またこれらの感染者には慢性胃炎がみられます。残念ながらはっきりした感染源はまだ分かっていませんが、ピロリ菌の感染率は衛生環境と相関があります。50歳以上の日本人の70〜80%、20歳以下の若年者では約20%が感染しています。日本人全体では全人口の半数が感染していると見られています (感染率は欧米の約2〜3倍)。
ピロリ菌が胃の中に住みついている限り、かいようを繰り返す状態が続きます。最近は胃ガンの発症にもピロリ菌が関わっていると考えられてきています。
ピロリ菌に感染していないか心配です。どこで診断してもらえますか。
ピロリ菌が胃炎や胃・十二指腸かいように関与しているということが明らかになり、日本でもドイツでもその診断と除菌治療に保険が適用されています。感染の有無は胃カメラ による診断、採血による抗体測定、呼気中の尿素の測定、便中の抗原チェックなどで診断されます。
治療としては、日本ではプロトンポンプ阻害薬という胃酸の分泌を抑える薬と抗菌薬2剤を用いた3種類の併用による治療が主流です。1週間内服した場合の除菌率は80〜90%。将来は1剤単剤の2〜3日服用でもよく効く新しい薬が開発されるかもしれません。
胃かいようになったらどのような治療を受けるのでしょうか。
昔は胃かいようと診断されるとすぐに手術が行われたこともありました。今は、余程のことがない限り薬で治る病気と考えられています。急性胃粘膜症候群や消化性かいようの初期治療の基本は、1) 胃酸の分泌を抑える薬剤の投与、2) 食事療法、3) 身体・精神の安静です。そして再発防止には、4) ピロリ菌の除菌が大切です。
日常生活ではどのような点に注意すればよいでしょうか。
食事および生活療法の基本を表2にまとめてみました。規則正しい時間に腹6分目のやわらかい食事をすることが大切です。空腹は胃酸による胃粘膜損傷を助長します。かいようの方には少量でも3回の食事のほかに午前10時、午後3時の軽食をすすめる場合があります。
強いアルコールやタバコは胃粘膜を傷めます。酒豪家の方々はよく「アルコール消毒」などと言われますがもってのほかです。コーヒー、炭酸飲料、柑橘類、脂っこい食事、強い香辛料は胃を刺激するので避けま しょう。乳製品の不耐症でなければ、牛乳は胃粘膜を保護する有効な飲料です。
表1 よくみられる胃かいようの症状 |
みぞおちや背中への痛み *空腹の時に増強する胃痛(特に夜中、朝方) *食事により胃痛が軽減 *胸焼け *黒色便(出血がある場合) *ひどい時には吐血 |
表2 胃かいようの生活療法 |
規則正しい食生活 *空腹状態を避ける(間食をとる) *規則正しい食事時間 嗜好品の制限 *カフェイン入りのコーヒーは避ける *アルコールは避ける *タバコはやめる *炭酸飲料、柑橘類は避ける 食事のポイント *1回の量を少なめに(腹5~6分目) *柔らかい食品を選び、材料は小さく切って調理する *就寝前に温めた牛乳を少し飲む *強い香辛料は避け、味はうす味とする 心身の安静 *思い切って休暇をとる *現場を離れ、日常とは違った生活をする *運動、散歩、睡眠、入浴、マッサージなども有効 |