凍える夜のとっておき、「秘密のビール首都」で安らぎの1杯
バイエルン州北部のオーバーフランケン地方は、古くから大麦やホップが栽培され、それらを原料とするビール醸造も盛んだ。なかでもクルムバッハは、「Heimliche Hauptstadt des Bieres(秘密のビール首都)」とも呼ばれるドイツ屈指のビール醸造の街。1349年には修道僧によるビール造りが始まっており、19世紀には56もの醸造所があったと言われる。毎年夏には「Kulmbacher Bierwoche」というビール祭りが開催される。移動遊園地などはなく、酔っての乱痴気騒ぎとも無縁で、旅人をビールと笑顔と音楽でもてなしてくれる。街がビール一色に染まる1週間だ。
メンヒスホーフ地区には、古い醸造所を改装したバイエルン・ビール醸造博物館が。この地方のビールに関連するジオラマや歴史的な機械、希少なボトル類が展示されている。併設の小規模醸造所では、透明な煮沸釜でビールが造られている。釜の中で麦汁が躍る様子を実際に見ることができ、大変興味深い。
街の名を冠した醸造所KulmbacherBrauereiは、小さな醸造所が併合した巨大な醸造所だ。Kulmbacher、Mönchshof、Kapuziner、EKUの4つのブランドを持つ。EKUはErste(最初)、Kulmbacher(クルムバッハ)、Union(結束)という意味があり、伝統的なレシピに基づいたビールが造られている。
寒い季節にぜひとも飲みたいのは「EKU28」だ。「28」はかつての発酵前の麦汁エキス濃度を示している。アルコール度数は11%で、世界で最も高いアルコール度数を誇っていたことも。現在ラベルには「世界で最も強いビールの一つ」と記されている。ウイスキーのようなアルコール感。豊かな麦芽のニュアンスに、オレンジの皮やレーズンを思わせるような複雑な香りが寄り添う。心地よい酩酊感に、心身の緊張がほぐれていく。音まで凍り付いたような静かな晩にゆっくりと味わいたい1杯。