この4月末、ベルリン国立歌劇場に新しく誕生したオーケストラのお披露目コンサートが行われました。その名は「オペラ座子どもオーケストラ」(Opernkinderorchester)。一体どういうプロジェクトなのか興味を持ち、5月19日の最終公演に足を運んでみました。
この日の午後の国立歌劇場は家族連れの姿が目立ちました。やがて舞台に現れたのはさまざまな楽器を持った子どもたち。マックス・レンネによる指揮により、彼らが奏でるモーツァルトのオペラ「アポロとヒュアキントゥス」序曲のひたむきな演奏は、聴きながら心打たれるものがありました。
ダニエル・バレンボイムが指揮した4月20日のコンサートから
この子どもオーケストラが誕生したのは昨年2月。「子どもがオペラに親しみ、音楽に感動する経験は、決して早すぎるということはない」と考える歌劇場インテンダントのマティアス・シュルツと、音楽監督のダニエル・バレンボイムのアイデアにより生まれました。参加する子どもたちは、7歳から13歳までと比較的低年齢なのが特徴です。
このオーケストラがもう1つユニークなのは、ベルリン市内の音楽学校との協働プログラムであること。子どもが放課後に楽器を学ぶ学校や教室といえば日本ではプライベートが一般的ですが、ドイツには地区ごとに公立の音楽学校があります。参加した計86人の子どもたちは、毎月2回、音楽学校の教師とシュターツカペレ・ベルリンの団員の指導により、1シーズンかけて練習を重ねてきました。
世界的テノール歌手のローランド・ヴィラゾンも共演した
この日のプログラムは、モーツァルトの「魔笛」のアリアやフンパーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」の合唱シーン(歌劇場の児童合唱団との共演)、さらにプロコフィエフの「ペーターと狼」というオペラ座ならでは演目が並びました。子どものためのコンサートでしばしば演奏される、それゆえに子どもが演奏するのはまれな演目ともいえます。「魔笛」では世界的テノール歌手のローランド・ヴィラゾンや若手ソプラノ歌手のセレナ・サエンズが共演。ヴィラゾンは進行役も務め、ユーモアあふれる語りに会場は沸き立ちました。
終演後、計4回の本番を終えた子どもたちのリラックスした表情が印象的でした。このプロジェクトチームの一員でホルン教師のヴィルデあやさんは、「この中から将来音楽家になる子どもたちの数は分かりません。でも、将来どんな職業に就いても、ここで学んだ創造性はきっと生かされると思います」と語ります。
オペラ座子どもオーケストラは、来シーズン以降もプログラムを変えて継続されるとのこと。子どもたちにとって、他者とともに音楽をつくる経験は、生きる力となるに違いありません。