2019年はベルリンの壁崩壊から30年という節目に当たります。ベルリン市立博物館はこの機会に特別展「Ost-Berlin Die halbe Hauptstadt(東ベルリン 片方の首都)」を開催しています。同博物館は2015年に「西ベルリン」についての特別展を開催しており、これで東西ベルリンの回顧展が完結することになります。
会場であるミッテのエフライム宮殿に足を運んでみました。中に入って最初に置かれていたのが、ロケットを模した物体。これは1969年にプレンターヴァルトにオープンした遊園地のメリーゴーランドに置かれていた装飾品だとか。この遊園地は当時大変なにぎわいを見せましたが、2001年に倒産してしまいました。当時の人々がこのロケットに抱いたであろう未来への希望と、背後に飾られた現在の廃墟との対比は、物悲しさを誘います。
1969年夏に撮影されたテレビ塔とアレクサンダー広場方面
この特別展のキュレーターを務めた歴史家のユルゲン・ダニエル氏はしかし、「哀愁を誘う内容ではなく、1960年末から89年までの東ベルリンの多様な様相を見せたかった」と語ります。実際、当時を知る人も知らない人にとっても、今は亡き東ベルリンへの発見の旅といっていい多彩な内容になっていました。
最上階の展示は、先の遊園地と同じく1969年にオープンし、統一後の今もベルリンのランドマークになっているテレビ塔がテーマ。その下の階の「舞台」というコーナーでは東ベルリンの代表的な目抜き通りが紹介されます。フリードリヒ通りやウンター・デン・リンデンが壁によって分断されていたのに対し、シェーンハウザー・アレーやカール・マルクス・アレーの沿道にはカフェやレストラン、書店が構え、往年の活気が伝わってきます。
1984年のシェーンハウザー・アレーの様子(Dieter Breitenborn撮影)
「住居」「労働」「ファッション」「娯楽」のようにジャンル分けされているので分かりやすく、当時の写真やポスターなどの展示品に加えて、かわいらしいイラストによる図解が置かれ、理解を助けてくれます。また、Sillyをはじめとする当時の人気バンドの音源を聴けるようになっていたり、1980年代の路面電車からの街の映像が流されていたりと、東ベルリンを五感で体感できる工夫が随所に見られます。
東ドイツは国による厳しい検閲があった一方、体制とは相入れない考えを持つ芸術家にも一定の自由が与えられていたといいます。「自由の余地」というコーナーでは、住宅の中庭や個人のアパートを使った文化活動や、非公式で出版されていた雑誌などが紹介されます。これが後に、東独の体制を揺るがすことになるのです。
楽しく学びながら、ソーシャルメディア全盛の今に生きる私たちにも示唆を与えてくれる展覧会になっています。この「東ベルリン」展の開催は11月9日まで。
「東ベルリン」展: https://ost.berlin