私がベルリンにやって来たのは、ちょうど6年前のこと。当時まだ現役だったテーゲル空港にスーツケース一つで降り立ち、この街を見てすぐ脳裏に浮かんだのは「異質」という2文字。ケルンからベルリンにやって来た親友は、「ドイツは15の州とベルリンとマヨルカでできているんだよ」とジョーク混じりに、ベルリンがどれだけ特殊な街なのかを説明してくれました。
塗り重ねられたグラフィティ
ドイツの他都市と比べて私が感じるベルリンの違和感の一つは、圧倒的な落書きの多さです。それはグラフィティと呼ばれ、ベルリンではアートとして認知される存在となっています。グラフィティは表現の自由度が高く、社会問題に対して真っ向からぶつかっていく市民の心情が反映された、ベルリンらしい芸術の形ではないでしょうか。そのことを通じて、今まで芸術に対して思っていた「よくわからないけどすごいものだ」という曖昧なフィルターが取り払われて、アートをより身近に感じることができるようになりました。
街を彩る1UP
ベルリンに来たことがある人は、「1UP」という3文字をどこかで一度は目にしたことがあるかもしれません。これは2003年にベルリンのクロイツベルク区が生んだ、グラフィティグループ「One Uni ted Power」の略称です。彼らは非公式の団体としてメンバー非公開で活動しており、「街に住む市民は、そこにあるものをみんなで共有している」という考えのもと、壁面のみならず、電車などにも彼らのアートを残しています。今やベルリンを飛び出し、世界各国で見られるようになった「1UP」のグラフィティですが、これら作品の全てが道徳的に許されたものではなく、器物損害に該当するれっきとした犯罪であるのも事実です。しかしながら、表現の自由をうたい続けることで街に個性を与えて、作品を見にくる観光客がいるということは、街づくりの一翼を担っているともいえます。アートをより身近に感じることのできる環境を築き上げた彼らの功績に、個人的には敬意を感じています。
私のお気に入り1UP
今回あらためて、1UPを探しにクロイツベルクを見てまわることに。U1とU3が通るヴァルシャウアー·シュトラーセ駅からハレシェス·トア駅までを2時間かけて歩きました。街全体の少しどんよりとした雰囲気と対比してカラフルに彩られたグラフィティの数々は、誰かの不満のはけ口のように塗り重ねられ、歴史とともにその街を形作って来たかのようです。人によっては「落書き」止まりのものでも、ここにあれば「アート」として受け止めてもらえる、そんな寂しいアートの拠り所がここベルリンにあります。
電車からしか見られないような屋上や「どうやってそこに?」と思うような場所にも見つかり、街を歩いていたときよりも帰りの電車でたくさん見つけられたのはここだけの話です。ベルリン散策の新たな提案、1UP巡りをぜひ体験して、自分のお気に入りを見つけてみてください!