ベルリンの西の郊外にある野外劇場ヴァルトビューネでは、ベルリン・フィルのピクニックコンサートをはじめ、夏の間さまざまなジャンルのコンサートが開催されます。その中から7月29日、ダニエル・バレンボイム指揮、ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団のコンサートに行ってきました。
実はこの2日前、私はたまたまテレビでバレンボイム氏を観る機会がありました。ロンドン五輪開幕式の終盤で、彼が国連の潘基文事務総長やリベリアの平和運動活動家レイマ・ボウィ(2011年のノーベル平和賞受賞者)らと共に大きな五輪旗を運ぶ姿が映し出されたのです。それは、ユダヤ人音楽家であるバレンボイム氏が、長年イスラエルとアラブ諸国の融和のために尽力してきたからにほかなりません。彼はその意思表明を、イスラエルとヨルダン、レバノン、シリアなどアラブ諸国の音楽家が集まって1999年に結成された、ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団との活動を通じて実践してきたのでした。
満員に近い聴衆が集まったヴァルトビューネ
コンサートの数時間前、猛烈な雨がベルリンに吹き荒れました。公演中止という事態も一瞬頭をよぎりましたが、コンサートが始まる頃には雲は完全に引き、見渡す限りの青空が広がりました。その変化の様子は、「奇跡的」と呼びたくなったほど。会場をほぼ埋め尽くしたお客さんの間からも、安堵のムードが漂います。
ベートーヴェンの交響曲第3番と第5番というプログラム。バレンボイム氏と同楽団のコンビはつい最近、新しいベートーヴェンの交響曲全集を出したばかりなのですが、前半の英雄交響曲の、力強い冒頭の和音が鳴り響いてすぐに、その仕上がりの高さに驚嘆。これはもう臨時編成のオケとは思えないほどの水準です。オーボエやホルンなどのソロ楽器には華があり、何より合奏が1つの統一体を成しています。バレンボイム氏は時々独特の「ため」を作りながら、「英雄」にふさわしい真摯で雄渾な演奏を聴かせてくれました(もっともPAを通した音は、やや迫力不足だったのも事実ですが)。
踏みしめるようなテンポで始まった「運命」は、日が沈んでいく過程と重なり、夜空に舞う花火のごとく壮大なフィナーレが終わると、聴衆の盛り上がりは最高潮に。バレンボイム氏はマイクを手にし、「ベートーヴェンの『5番』の後にアンコールを演奏することはできません。でも、我々は来年もここにやって来ます!」と短く挨拶。来年8月25日、ヴェルディ、ワーグナー、チャイコフスキーのプログラムを引き下げて彼らは再登場するそうです。
翌日の新聞には、「バレンボイムは天気も指揮した」の見出しが躍っていました。
バレンボイム氏とウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団