「フルート・カルテットを組んで、Fête de la Musiqueに出てみない?」。春のある日、フランス人とドイツ人の両親を持つ友人がふと言いました。彼女は、ベルリンのアマチュア・オーケストラで何度も一緒に演奏したことがある音楽仲間。私はこの「フェット・ドゥ・ラ・ミュージック」のことを何も知らぬまま、ほかのメンバーと定期的に集まってフルート四重奏の練習をすることになりました。
「音楽の祭典」を意味するこの音楽祭は、1982年にフランス文化省の提唱によって産声を上げました。「音楽はすべての人のもの」という基本精神に則り、プロ、アマ、老若男女を問わず、誰でも無料で参加できるのが特徴で、夜が1年で最も短い夏至の6月21日に毎年開催されます。人気の高まりとともに海外にも広まり、今やドイツだけでも45都市で開催されているそうです。
筆者が出演したフルート・アンサンブル。入場無料、ギャラなしがこの音楽祭の基本ルール
さて、迎えた6月21日の遅い午後、私たちは自転車に乗って地下鉄のシェーネベルク市庁舎駅の前に集まりました。この日の16:00から22:00まで、ベルリン市内の公共の場(街路、広場、公園など)であれば、基本的にどこでも事前申請なしに演奏して良いことになっています。
地下鉄のシェーネベルク市庁舎駅前にて
風がやや強かったので、譜面を洗濯バサミで留めて演奏開始! 正直なところ、「人通りがそれほど多くない街路で演奏して、聴いてくれる人がいるのだろうか」と若干心配していたのですが、自転車に乗った人やベビーカーを押した人たちが自然と足を止めて耳を傾けてくれました。私たちが演奏したのは、スメタナの「モルダウ」やメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」(まさに夏至の夜がテーマの音楽!)のスケルツォなどクラシック作品から、「カリニョーゾ」「カーニバルの朝」といったブラジル音楽まで。最後はスピード感のある「熊蜂の飛行」を吹き終えると、お客さんが大きな拍手を送ってくれました。
続いて自転車に乗ってアイゼナハ通りへ。使徒パウルス教会の前の広場が次の「舞台」です。近くの公園にいた親子連れなどが足を止めてくれ、良い雰囲気になってきたのですが、突然強い雨が降り出しました。教会の方の厚意で中にしばらく避難させていただき、その後、肌寒い中なんとか最後まで吹き切りましたが、私たちの舞台はここで終了。近くのレストランで祝杯を挙げました。
この日はワールドカップのドイツ対ガーナ戦やCSD(同性愛者のパレード)もありましたが、ベルリンの多くの街角で無料コンサートが行われ、人気バンドの「エレメント・オブ・クライム」が登場したクロイツベルクのオラーニエン広場には、3000人以上ものファンが集まったそうです。私自身、コンサートホールや教会で演奏するのとはひと味違う、音楽の喜びを味わった1日となりました。