ジャパンダイジェスト

旧カール・マルクス書店が文学サロンに

社会主義時代の巨大なアパートが建ち並ぶカール・マルクス大通り(Karl-Marx- Str aße)に、かつてその通りと同じ名の本屋がありました。東独時代、東ベルリン最大規模の売り場面積を誇り、その充実した品ぞろえから、東側だけでなく、西ベルリンの人々も本を求めてやって来たといいます。秘密警察シュタージを題材とした映画『善き人のためのソナタ』(2006年)の印象的なラストシーンに登場する書店と言えば、ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。

ベルリン
文化財に指定されている旧カール・マルクス書店

しかし、2008年に経営難から惜しまれつつ閉店。その後、建物はオフィスとして使われていましたが、今年3月、文学サロンとして生まれ変わったという嬉しいニュースが入ってきました。

仕掛人は文化マネージャーのヴァネッサ・レミー氏。アウフバウやズーアカンプといった著名な出版社での勤務経験を持つ同氏が、旧書店の上階に事務所を構える映像制作会社に話を持ち掛け、プロジェクトが実現するに至ったといいます。「もう一度、この街の読書愛好家を惹き付ける文化的な場所にしたかった」と同氏。

オープニングの月に行われた4回の朗 読会はいずれも満員だったそうです。通常は入場料に8ユーロかかりますが、5月最初の日曜日の午前、入場無料のイベントが行われるというので足を運んでみました。

地下鉄U5のシュトラウスベルガー広場駅から徒歩5分。久々にやって来た旧書店の正面には、Karl-Marx-Buchhandlungの大きな文字が、変わらずそこにありました。建物の外観と内観は共に文化財に指定されているため、内部の木製の書棚を含め、書店時代そのままの状態が残されたのでした。

ベルリン
書店時代の面影を残した内部の様子

この日は、国境なき記者団の年刊写真集の発売に際して、ウクライナ人カメラマンとドイツ人ジャーナリストが登壇し、ウクライナ東部での現地の様子を率直な言葉で語り、訪れた人は熱心に耳を傾けていました。

興味深かったのは、この日配布された国境なき記者団による最新の「報道の自由度」を示す世界地図。「良い状況」にあるドイツやポーランド、北欧などの欧州諸国に比べて、アジアにおいて「十分な状況」にあるのは台湾のみ。日本は「顕著な問題のある」カテゴリーに置かれていました。すでに知っていた情報とはいえ、かつて報道の自由が著しく制限されていた国の元書店で、母国の現状を複雑な思いで眺めました。

久しぶりにカール・マルクス書店に足を運び、やはりオフィスよりは書物が似合う空間だと感じました。そして、自由で創造的な意見が交わされる場こそ、書物が満たす空間にふさわしいのだと思います。

www.karlmarx-buchhandlung.com

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
守屋健(もりやたけし)
ドイツの自動車、ビール、そして音楽に魅せられて、2017年に渡独。現在はベルリンに居を構えるライター。健康維持のために始めたノルディックウォーキングは、今ではすっかりメインの趣味に昇格し、日々森を歩き回っている。
守屋 亜衣(もりや あい)
2010年頃からドイツ各地でアーティスト活動を開始し、2017年にベルリンへ移住。ファインアート、グラフィックデザイン、陶磁器の金継ぎなど、領域を横断しながら表現を続けている。古いぬいぐるみが大好き。
www.aimoliya.com
佐藤 駿(さとう しゅん)
ドイツの大学へ進学を夢見て移住した、ベルリン在住のアラサー。サッカーとビールが好きな一児のパパです。地元岩手県奥州市を盛り上げるために活動中。
Nippon Express ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 習い事&スクールガイド バナー

デザイン制作
ウェブ制作

amazon 中村真人 書著

ドイツ便利帳サーチ!

詳細検索:
都市
カテゴリ選択