2月15日発行848号で取り上げたウビガウ地区に続く「近場で気分転換シリーズ」として、今回はドレスデンの南15km、時計の産地として名高いグラスヒュッテの北8kmにあるヒルシュバッハ(Hirschbach)をご紹介します。
ドイツ国内を車で走っていると、あちこちに村が点在していることが分かります。ヒルシュバッハもそんな村の1つ。広大な牧草地や農地に囲まれた長閑な地域に位置します。人口は100年前から150人強しか増加しておらず、現在は500人ほどと規模は小さいものの、1422年に文献に初めて登場した由緒ある村です。
ここヒルシュバッハでは、村長(あるいは領主)の館の一角が休暇住宅(Ferienwohnung)として開放され、お屋敷で過ごすという経験ができるようになっています。その名も「ヒルシュバッハの領主館(Rittergut Hirschbach)」。現在の当主はヘルテル夫妻で、2人がすべてを切り盛りしています。領主館はドイツの農場に典型的な、中庭の四辺を母屋や納屋などが取り囲む四辺中庭形式(Vierseitenhof)で、その後方には広大な牧草地と森林が広がっています。
ヘルテル夫妻の祖父の代に、領地は東ドイツ政府によって没収され、一家は西ドイツへ移住しましたが、東西ドイツ統一後、元の地に戻ることを決意しました。ヘルテル氏いわく、幸いにも、完全に元の姿のままの屋敷や納屋を取り戻すことができたそうです。1997年には、さらに森林を買い戻しました。狩猟・釣り・乗馬がこの休暇住宅の最大の“売り”だそうですが、広大な森林を見て納得。思う存分に狩りや釣りができそうです。
作業場所および馬小屋。この後方に広がる牧草地と森林もヘルテル夫妻の所有地
宿泊部屋は中庭に面した建物内にあり、母屋の広々としたメインホールは、パーティーなどのイベントにも利用されています。中庭に面した建物は順次修復していく予定とのこと。大家族および多くの使用人が大所帯を成して生活していた頃とは違い、核家族が一般的になっている現代においては、このような大規模な農場の運営や活用方法について、どこも思案をめぐらせているようです。
宿泊した建物から中庭を望む。正面が母屋
私たち家族は、母屋の向かいの建物の2階に宿泊しました。朝食を終えて中庭に出ると、ご夫妻の愛犬に出迎えられ、さらに中庭を出てすぐの馬小屋へ行くと、毛並の良い馬たちが人懐っこく近寄ってきました。その後方に広がる牧草地に沿って歩き、しばし散策。私たちは狩りも釣りもしませんでしたが、ちょっとばかり領主の生活気分を味わうことができ、幸せな小旅行でした。
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
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