ジャパンダイジェスト

ガラス張りのクルマ工場

ここ数年、有名建築家の設計による有名ブランドショップが、「建築とファッションのコラボレーション」と言われて熱い視線を浴びていました。次なるトレンドなのか、目下、建築とクルマの関係が熱いのです。ヨーロッパ中の自動車メーカーが、ミュージアムや工場の設計を建築家に依頼してコーポレート・アイデンティティの刷新に努め、建築物が話題となって新しい観光スポットが誕生しつつあります。

その一つが、市の中心部から東に1キロの場所に建つ、フォルクスワーゲン(VW)社のガラス張り工場(Gläserne Manufaktur)です。工場には閉鎖的なイメージが付きまといますが、ここは芝生と池に囲まれ、周囲には市民の憩いの場である公園、動物園、そして大学病院や住宅地もあります。

工場外観
これが自動車工場?ガラス張りの円柱がひときわ目を引く

ガラス張りだけあって、クルマが組み立てられる様子を道路からガラス越しに眺められ、さらに夜にはライトアップされて、きらめくガラス箱へと変身します。工場内を見学できるのはもちろん、カフェやレストランも併設。各種イベントも開催され、今ではすっかりドレスデン市民の一員として認知されるようになりました。2002年の大洪水の際には、オペラ座が使用不可能となったために「臨時オペラ座」にもなりました。ビゼーの「カルメン」上演の折、小道具が本来のタバコからクルマの部品に変更されるというウィットに富んだ演出も!

工場内部
お店のディスプレイのような製造風景

設計者はドレスデン工科大学の教授でもあるギュンター・ヘン氏。工場の完成は2001年、まさにトレンドの先駆けでした。しかし当初の敷地計画が、オペラ座の斜め後方の空地であったため、周辺環境の悪化を恐れた市の猛反対に遭いました。市民との良好な関係の構築はVW 社の優先課題でしたので、敷地変更などさまざまな歩み寄りがなされました。部品運搬のトラックが出入りすれば交通渋滞を招くため、運搬には既存の路面電車を利用して線路を工場内に引き込むことで、両者は妥協したのです。ブルーの専用車両は宣伝になり、同時に交通渋滞も回避できる最善策でした。

いまを生きる人々や市との対話を通してコミュニティーにとけ込んでいこうとする新参者の姿勢、また、過去の遺産だけに固執することなくそれを受け入れていく姿勢、その良き例ではないでしょうか。

福田陽子さん福田陽子
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
http://yoyodiary.blog.shinobi.jp/
 
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