ドイツ各地の有名なオーケストラに所属する日本人音楽家の活躍は、ドイツに住む日本人を勇気付けてくれる存在ではないでしょうか。今回は、ゼンパーオーパー(ザクセン州立歌劇場)でたびたび見かけていた兵庫県出身の日本人バイオリニスト、島原早恵さんの登場です。
島原さんは4歳でバイオリンを始めて以来、将来はバイオリニストになるという具体的な夢を常に持ち続けていました。本人が「その情熱や自信がどこから来たのかは分からないけど」と振り返るほどの熱意は、その後、プロの道を邁まい進するのに必要な原動力。17歳で参加した米国のアスペン音楽祭で初めて外の世界に触れ、自分に足りないものを自覚したことがその後の音楽留学を目指すきっかけになりました。桐朋学園大学を卒業後、ミュンヘン国立音楽大学大学院に留学。著名なバイオリニストを数多く育てた名教授アナ・チュマチェンコ氏に運良く師事したことでヨーロッパの伝統奏法を学び、研鑽(けんさん)を積むこととなりました。
ドレスデン国立歌劇場管弦楽団の名誉指揮者も務めた、英国の名指揮者、
故コリン・デイヴィス卿とウィーン楽友協会ホールでの演奏後にて
伝統奏法の習得は、結果的にドレスデンへの道に通じることとなります。現存するオーケストラで2番目に古いシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団)は伝統を体現する楽団として名高いのですが、その伝統を継承するため、演奏スタイルや音色に深いこだわりがあります。茶道の心得がなくても、日本人として畳の上で育つ中で、自然と所作が身に付いている、という考え方と同じで、目指す音はちょっとやそっとでは真似(まね)できないドイツ人的な感性から生み出される音楽。おのずと外国人にはハードルが高くなり、伝統を受け継ぐ資質のある者のみが門をくぐることのできる、グローバルな現代には稀少なオーケストラと言えます。
笑顔が素敵な島原早恵さん
ドイツで感性を磨き、伝統奏法を習得した島原さんはシュターツカペレの書類選考を通過。オーディションでは「あんな演奏をされたら合格させないわけにはいかない」と審査員に言わしめた、圧倒的な演奏を披露し、見事合格。アジア人として初めての外国人団員となり、2003年以来、第1バイオリン奏者として活躍しています。
ミュンヘンでオーケストラに魅了され、実際に団員となった今、音楽家としてこれ以上の幸せはないと感じているとのこと。シンフォニー、オペラ、バレエ、室内楽と多岐に渡る演奏は体力的に大変ですが、仕事をイヤだと思ったことがないという幸せ者。厳しい競争にさらされた学生時代の苦しみが、今はすべて報われたと感じるそうです。おっとりとした眼差しや雰囲気を裏切るような、彼女の音楽とバイオリンに対する生き生きとした貪欲(どんよく)さは稀(まれ)にみる素質。ドレスデンの伝統の音を牽引し、ドレスデン音楽大学で後進の指導にもあたる音楽家として注目し続けたいと思います。
島原早恵さんホームページ: www.shimabara.de
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
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