日本やドイツをはじめ世界各地で公演を行う剣舞家の梨羽太朗(なしばたろう)さんは、昨年10月フランクフルトのレーデルハイムに剣舞の道場を開設しました。
梨羽師範(中央)とお弟子さん達
袴姿の師範と弟子が正座をし、呼吸と礼で稽古が始まります。心静かに自分と向き合い、呼吸と体を意識した動きで粛々と基礎稽古が進みます。剣舞というと真っ先に激しい刀の打ち合いを想像しますが、こちらの道場では「姿勢・呼吸・想像力を鍛錬し、楽しみながら健康になることを目的としています」と梨羽さん。
基礎稽古では刀を抜く、振る、納める、の動きを丁寧に練習しており、筋肉の使い方から息づかいまで一連の動きが整うとシュッと剣先が空を斬り、その一振りを美しいと感じました。
私も刀稽古を体験しましたが、刀を持って相手と対峙するだけでいっきに緊迫した危機感が生まれ、自分の体と相手の動きに集中する感覚が新鮮でした。わずかな時間でも、研ぎ澄まされる感性に驚きと喜びを感じました。
剣舞では、昔の武士や歌人が作った句や詩文を元に、史実を舞で表現していきます。「情景や心情を理解し表現することで歴史を体験できる」と語る梨羽さん。扇だけで雨や風、山などの光景を表したり、刀を使って戦いを再現したり、一瞬の動きに感情を込めたりと、当時の風景から出来事、人の情感に至るまでを“舞”で演じ、観客と共有できるのが素晴らしいと思い ました。
演目練習では、三人のお弟子さんが群舞を披露してくれました。艶やかに揺れる扇、激しくぶつかり合う刀、静と動、優雅と武勇が共存し、短い時間に凝縮された演舞に心奪われました。上杉謙信と武田信玄の川中島の戦いを描いた演目では、夜に乗じて川を渡る謙信の様子、信玄への遺恨、夜が明ける情景を扇と刀で表現。心身ともに歴史を体現しながら自分の中に落とし込み、いかに観客に見せるかという演舞方法が大変興味深く、強く惹き込まれ ました。
流れるような動きで刀を抜き、瞬時に空を斬る
「群舞で三人の息がぴったり合った時が一番楽しい」と言うお弟子さんから「自分 の呼吸と身体の動きが正しく整い、型が決まった時が最高」「剣での打ち合いが好き」 と言うお弟子さんまで三者三様ですが、皆 「難しいけれど、とにかく楽しい」と笑顔で語ってくれたのが印象的でした。
剣舞道場では基本、毎週木曜18時から20時に稽古をしていますが、人数が集まれば昼の部や子供向けの道場も開催可能とのことです。
心身を鍛錬し、刀と扇で歴史を演じる剣舞、是非一度体験してみてはいかがでしょうか。
TARO NASH The Samurai Dancer:
www.taro-nash.com
2003年秋より、わずか2週間の準備期間を経てドイツ生活開始。縁もゆかりもなかったこの土地で、持ち前の好奇心と身長150cmの短身を生かし、フットワークも軽くいろんなことに挑戦中。夢は日独仏英ポリグロット。