観光客でにぎわうフランクフルトの旧市街に「フランクフルト美術協会」の展示場があります。1829年に設立された同協会は、ドイツ最古で最大規模を誇る芸術団体で、1962年から現在の場所を拠点に活動しています。芸術を通して社会問題から人文科学、自然科学や哲学まで、幅広いテーマでグループ展や個展を開き、地元のアーティストのイベントにも積極的に取り組んでいます。今回私は1月13日まで開催中のグループ展に行ってみました。
週末の旧市街はいつも以上に人であふれていましたが、展示場に一歩足を踏み入れると、外の喧騒が嘘のように静かな空間が広がります。エントランスには3つの黒いガラスケースが並び、中には夜にしか咲かないアラビアンジャスミンが栽培されていました。これはテラリウムと呼ばれるガラス製の温室で、日中は光を遮り、日が暮れるに従って照明を利用して昼夜を逆転。昼間は花の豊かな香りを感じる代わりに視覚は遮断されることで、臭覚でのみ作品を感じるというユニークな展示でした。
3階建ての建物の2階には、印象的な映像作品が並びます。巨大な水槽を映した作品は一見水族館のようですが、よく見ると魚などの生物ではなく無機物を映し出しています。無機物を有機物のように見せる作品が多く、どの作品もずっと見ていたくなるような不思議な魅力がありました。同じ階には、連続した正方形のフレームがたくさん並び、さまざまな素材がコラージュされています。窓をのぞくように一つずつ見ていくのが楽しく、なかには日本の千代紙に似た素材が使われていたり、有名なキャラクターが貼られていたりと、思わずクスッと微笑んでしまうようなキャンバスもありました。
Hicham Berrada氏の映像作品
3階には12枚のパネルが並ぶ空間に、不思議な音が流れています。これはヴィヴァルディ作曲の「四季」をスロー再生させた音で、春夏秋冬の各パートを実際の四季の長さに合わせて編集。本来は全部で40分ほどの曲をちょうど1年の長さになるよう曲の速さを調整して流しているのだとか。また同時に展示されているパネルは1月から12月までの各月を示し、それぞれの月のパネルに屋外で紫外線を浴びさせて時の経過や物質が変化する様子を提示してくれていました。どの作品も多角的な視点で作品を提供してくれ、面白い美術体験ができました。
音楽とともに展示されたSam Falls氏の12カ月を示す12枚のパネル
この展示場にはガイドツアーやコラボイベントなども多く、一般的な美術館に比べると短い開催期間で次々に展示が入れ替わるので、繰り返し来館して異なるアートに触れるのもおすすめです。併設カフェもおいしくて雰囲気が良いので、散歩するような気軽さで、現在進行形で活動している芸術家たちの今の表現を鑑賞してみてはいかがでしょうか。
鑑賞後の休憩におすすめの併設カフェ
フランクフルト美術協会: www.fkv.de
2003年秋より、わずか2週間の準備期間を経てドイツ生活開始。縁もゆかりもなかったこの土地で、持ち前の好奇心と身長150cmの短身を生かし、フットワークも軽くいろんなことに挑戦中。夢は日独仏英ポリグロット。