今回は、森の散策の途中に「あら、こんなところに博物館が!」と偶然発見した、「隠れ家」的な人形博物館についてご紹介します。ファルケンシュタイン人形博物館は、本誌1152号でもご紹介したハンブルク、リッセンのスヴェン=シモン公園の中にあります。
ノスタルジックな台所
この建物は、1925年に若き建築家カール・シュナイダ-によって設計されたものです。当時としてはとても前衛的な様式が注目されましたが、長い間放置されたことで次第に朽ちていってしまいました。そんななか、この家にひと目ぼれした画廊主のエルケ・ドレッシャ-が1986年にこの建物をリノベーションし、彼女の家族から代々に受け継がれてきた人形コレクションを基にこの人形博物館を開いたのです。
人形たちのお茶会
ここでは主に18~20世紀のドイツ、フランスのアンティーク人形約500体と、約60個のドールハウスやキッチン、お店などが展示されています。人形とその衣装はもちろん、家具や食器なども、全てオリジナルでその時代のままのものです。家具や調度品、食器、台所用品、壁紙やじゅうたんに至るまで、その時代の様式に沿ってかなり精巧に作られています。ノスタルジックな美しい衣装や家具に目を見張るだけでなく、当時のファッションの流行や、人々の暮らしや文化、歴史を学ぶことができるので、小学生の団体がクラスの遠足で訪れることもあるそうです。ほかにも当時の子どもたちの写真や、家具や生活用品などの古いイラストのコレクションも見られます。
ラウエスハウスのヴィへルンの家
興味深いのはその展示の仕方でしょう。人形たちとその生活シーン一つひとつが劇場のように「のぞき箱」の中に収められています。小さなレディーたちがシャンデリアのともるゴージャスな居間でお茶を飲み、たっぷりとしたレースの天蓋付きの「お姫様ベッド」がある寝室で髪をとかし、パリのおしゃれなマダムがシックな帽子屋さんでショッピングをし……。また小さなお鍋が並ぶ台所には、お母さんを手伝う小さな男の子がいて、かまどの中から焼き立てのパンが見えます。そんな「のぞき箱」の中の世界は生き生きとしていて、とてもリアルに当時の中流、上流階級の生活が再現されているのです。
人形たちを驚かせないように、息をひそめてのぞき箱を回っているうちに、自分がガリバ-のような巨人になった気持ちになりました。まるでノスタルジックな時代にタイムスリップできるかのような、おすすめの博物館です。
ハンブルグ郊外のヴェーデル市在住。ドイツ在住38年。現地幼稚園で保育士として働いている。好きなことは、カリグラフィー、お散歩、ケーキ作り、映画鑑賞。定年に向けて、第二の人生を模索中。