5月のある日、ハノーファーの旧市庁舎で「アートクック」というチャリティー・ディナーショーが開かれ、約80人のゲストが7品のフルコースメニューとショーを楽しみました。参加費はすべて同市の北西約30kmの町、ヴンストルフ(Wunstorf)にある青少年のための社会施設「バウホフ(Bau-Hof)」に寄付されます。プロのアナウンサーが司会を務めた約5時間のディナーではアクロバットショーや手品が披露され、バウホフの活動の様子が紹介されました。
旧市庁舎で催されたチャリティー・ディナーショー
アートクックは、イタリア・チロル地方出身の料理人マルティン・マイルホーファーが発案したイベント。独創的な料理で成功を収めた彼は、利益を社会に還元したいと考え、調理師の育成を始めました。アートクックは、その調理師の卵たちが技を競う場にもなっています。すでに米国やイタリアなど世界14カ国で開かれており、ドイツでの開催は2度目。イタリアやドイツなど4カ国から、16~41歳の新米調理師たちが手弁当で参加し、アナウンサーも手品師もボランティア。飲み物や食材の費用は地元の銀行や企業から寄付を募るなど、多くの人々の協力によって成り立っていました。
イギリス風スープや仔牛のステーキなど、6品の手の込んだ料理に続き、最後のデザートでは、ベリーやマカロン、チョコレートを飾り、マイナス196℃の液体窒素をかけて瞬時に凍らせるというショーが披露され、白い霧による幻想的な演出に、驚嘆の声が上がりました。
デザートショーを行うマイルホーファーさん
マイルホーファーの授業ではレシピは配られないそう。プリンを作るときには何が必要なのか、生クリームはどこまで泡立てるべきなのか……など、生徒たち自身に考えさせるようにしています。「料理は調理を通して素材を変化させること。科学的な知識が必要で、とても奥が深い」とマイルホーファーは語ります。料理、チャリティー、ショーによって生み出される会場の一体感。参加の動機は様々ですが、料理人から運営スタッフ、ゲストまで、会場は皆で何かを成し遂げたという達成感に満ち、和気あいあいとした雰囲気が漂っていました。
ヴンストルフには北ドイツ最大の湖、シュタインフーダー湖(Steinhuder Meer)があります。バウホフはかつて、公共施設の清掃管理事務所として使われていたところ。現在は、ここで子どもたちが放課後に集まり、農業や工作など、様々な活動を行っています。また、学童保育や各種サークルもあり、利用は無料で、時間を持て余している子どもたちにとってはありがたい場所。このような施設は、ほかの自治体にも例がありません。
クックアート:www.cookart.it
バウホフ:www.derbau-hof.de
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、ドイツ語通訳。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。