世界最大規模のIT関連見本市・セビットが3月後半、ハノーファーで開かれました。日本は今回初めてパートナー国として参加し、通常の10倍の118社の企業が出展。合計70カ国から約3000の企業や団体が出展し、世界各国から20万人が訪れました。
今年は特に人工知能(AI)やロボットに主眼が置かれ、人型ロボットを作った、ロボット学者の石黒浩・大阪大教授の講演もありました。人気のドローンを使ったレースには、世界中から愛好者が集合。無人走行するバスや、学習能力のあるロボット、バーチャルリアリティーの世界など、最新技術が披露され、あちらこちらで人だかりができていました。
多くの人が集まるジャパンパビリオン
日本企業のブースが集まるジャパンパビリオンで通訳をしながら、日本の展示を見て印象的だったのは、日本らしい緻密さ、ニッチさが追及されているところ。東京のセノーテ(CENOTE)は二人の大学准教授が作った会社で、スマートフォンなど複数の携帯端末を連携させて3Dディスプレイとして使用できる技術VISTouchを展示。ゲームなどエンターテインメントの分野はもちろん、体内検査など医学分野での活用が有望だそうです。また埼玉の金子製作所は、眼鏡なしで150度の広さで3次元の映像が見られる「多視点裸眼3D内視鏡システム」を開発。こちらも医療での活用が期待されています。国立情報学研究所は、カメラによる自動顔認識を防ぐ眼鏡を開発し、情報化時代に警告を発しています。
タブレットとスマートフォンで3次元の世界を表現するセノーテ社
開幕前夜の催し「ウエルカム・ナイト」も素晴らしく、光と映像、踊りを組み合わせたショーは斬新で、初めて見る形でした。メルケル首相は「互いにフェアにつながり合うこと、そして各人が一生学び続け、能力を発展させること」とデジタル化する社会の未来についてスピーチしました。
さまざまな新技術を目の当たりにしましたが、技術革新が進むと、私たちの将来はどうなるのでしょうか。ロボットが仕事を奪うという人もいますが、ロボットや車、家電製品を利用し、技術にできることは任せ、人間にしかできないことに集中できるのは幸せなこと。そのような生活が実現するのは、これまでの技術の積み重ねの結果であり、本当にすごいことなのだと改めて思いました。昨年西アフリカのギニアを旅行し、首都でありながら電気や水が途切れる日常を味わったからかもしれません。野性味あふれるギニアに比べると、日本や欧州の生活は温室のようであると思いましたが、バーチャルリアリティーが進み、すべてが記録・再生可能となると、ますます内側にこもったままで生活できるようになるでしょう。まさに映画「マトリックス」の世界です。これを進化というのか退化というのか、またそれが幸せをもたらすのかは、私たちが何を求めるかで違ってくるのだと思いました。ともかく、いろいろな意味で、刺激的なメッセでした。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。