ハノーファーの隣町ヘミンゲン村にある森のようちえん「森のアリ」を、東京家政大学教授の尾崎司さんや一般社団法人コ・クリエーション・ネットワーク(Co-Creation Network)の視察団と見学しました。今年15周年を迎えた同園では 子供達が戸外でのびのびと過ごしています。
3歳から6歳の園児15人に、保育士が二人付きます。朝8時から子供達が集まり始め、揃ったら輪になって朝のあいさつをし、歌を歌います。それから自由遊びをし、10時頃小さな丸太が円になって並べられたところで朝食を取ります。その後また自由遊びの時間となり、最後に絵本を一冊読んで、あいさつと歌があり、13時に終了です。
終わりの会で、絵本を読む園長
敷地には列車の車両として使われていた木造の建物があり、そこに絵本や教材が置いてあります。雨や雪が降っても、例えマイナス15度でも外で過ごすため、実は子供より保育士の方が大変とのこと。水道はなく、水は貯めておいたものを使います。トイレはコンポストトイレです。
人工のおもちゃはなく、自然にあるものがすべておもちゃになります。丸太の上を歩いてバランス感覚を養ったり、木のかけらをコンピュータや台所に見立てておままごとをしたり。8月に行ったのですが、園児は思い思いにナメクジを集めて観察していました。もめごとがあっても先生はなるべく口を出さずに、子供達で解決するよう見守ります。近所に遠足に出かけたり、老人ホームのお年寄り達と野菜をつくるなど地域とのつながりを大切にしています。
木々の間にある幼稚園
パトリシア・ドイメランドハートマン園長は「森のようちえんでは全人教育ができる」と絶賛します。ここで育った子供達は社会性があり、持続力や忍耐力、学ぶ力が身に付いています。今夏ヘミンゲン統合学校のアビトゥア(大学入学資格)で1番だった子は、ここの卒園生でした。園長は「ファンタジーが培われることで、人間性が養われる。これからの人生の準備をしているのです」と話し、想像力が他者を思いやる力を育てるといいます。日本では子供の声がうるさいと苦情が絶たないことから道路の高架下に託児所をつくり、窓を閉め切って保育しているところもあると話すと驚かれました。
森の中で目を閉じると、静けさがしみてきます。木々が天をさして伸び、空気が澄んでいます。室内とはまったく違う。毎日このような環境で過ごし、自然の移り変わりを感じられることのなんと素晴らしいことか。1日いただけで心身共にリフレッシュしました。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。