サービス業などの労働組合ヴェルディのハノーファー事務所で3月9日まで、ナチスの政策に抵抗した女性たちの展示「『何も無駄ではなかった』ナチスに抵抗した女性たち」が開催されていました。ナチスに抵抗した男性の逸話はいくつも残っていますが、女性の抵抗の歴史は1970、80年代になって初めて脚光を浴びるようになったといいます。ドイツ全土の女性たち18人の生き様がまとめられており、当時の様子がうかがえました。
「ナチスに抵抗した女性たち」展にて、信州大学の学生たち
男性の抵抗というと組織への反乱など派手な事件が多いですが、女性の場合は主に日常生活を送りながら、教育や福祉の分野で自身の主張をしています。例えばアンネ・マイヤーさんはカトリック系の施設で看護師として働いていましたが、「ハイル・ヒトラー」というヒトラーを讃えるあいさつを拒否。ナチスは戦争の武勇談をラジオで宣伝していましたが、マイヤーさんは実際は悲惨なものなのだと人々に知らせるため、戦死した人数をチラシにして配ったそうです。1942年に秘密警察ゲシュタポに逮捕され、強制収容所に入れられましたが、生き延びました。このように地道な活動を続けていた人が多いのです。
現在ヴェルディはゴゼリーデ通り10番地に位置しますが、戦前は4番地にあり、金属工業や農業者などほかの労働組合と一緒に事務所を構えていました。ところがナチス政権が押し入り、解散させられてしまいます。現在4番地はカフェやレストランになっていま す。そのような歴史を乗り越えて、労働組合は再び戦後ドイツ社会で重要な役割を担うようになりました。
この展示は、信州大学の学生たちと一緒に見学しま した。この日、平和団体「広島連合ハノーファー」のギュ ンター・ムンディールさんが平和をテーマに、信州大学の学生たちと市内散策をしました。ムンディールさ んは「こうして理不尽に強制収容所に送られた市民は、 何の賠償も受けていない。ドイツは過去と向き合う歴史教育をしており、よくやっている部分もあるが、まだできることはある」と語りました。
学校生物センターにて、植物の進化について考える
ちなみに信州大学の学生たちは松岡幸司准教授のもとドイツ環境ゼミの一環として、2週間南ドイツのレー ゲンスブルクでドイツ語講座を受講した後、3日間ハ ノーファー周辺で視察。エネルギー自給村シュタイ ヤーベルク訪問をはじめ、ハノーファー市気候保護局 で再生可能エネルギー推進や地球温暖化ガス削減対 策について理解を深め、学校生物センターで環境教育 の体験授業を受けました。さらに、慶應義塾大学の杉 浦淳吉教授も一部合流。ライプニッツ・ハノーファー大学のフランツ・レンツ教授の案内で大学を見学し、 ドイツの学生と交流を図りました。信州からの学生たちはそれぞれ興味のある分野で問題意識を持ってお り、訪問先で内容の濃い質疑応答をしていたことが印象的でした。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。