吉本興業の芸人であり、かつ福島原発について精力的に取材をしているジャーナリストのおしどりマコさんの講演会が先日、ブラウンシュバイクで開かれました。福島原発事故について最も取材しているといわれるだけあって、日本でもあまり知られていない情報が満載。福島の様子がよくわかり、原発や日本について考えるきっかけになりました。
おしどりさんは約3週間ドイツに滞在し、フライブルクやデュッセルドルフなど各地で講演しました。ブラウンシュバイクは今年で3年目となります。講演ではパートナーであるおしどりケンさんが資料を映写し、マコさんが歯切れよく説明。汚染土を入れたフレコンバックが山のように積まれた光景や、福島原発の敷地内の汚染水タンクの写真を見て、聴衆たちは驚きの声をあげました。タンクは急いで作ったため汚染水が漏れており、 新しいタンクに入れ替える必要があります。タンク自体が汚染されており、板などで壁や床を遮蔽(しゃへい)しながら入れ替え作業をするのですが、底にたまった水は作業員がモップで拭き取るしかないとのこと。写真を見ると、いかに被曝のリスクが高いか分かります。
資料を駆使して説明するマコさん(右)
福島原発事故はまだ収束していないし、汚染土や汚染水など問題も山積していると絶望しそうになりましたが、最後にマコさんがアコーディオンの弾き語りをし、ケンさんがそれに合わせて針金アートを実演。犬やアヒルをすばやく作り、聴衆にプレゼントして喜ばれていました。雰囲気が一転し、笑うことで「この先 も頑張ろう」と、元気が出てくるのを感じました。
講演は福島についてだけでなく、いろいろな意味で 勉強になりました。なぜ取材活動をするのかという質 問に、マコさんは「原発事故が起こって、自分の住んでいる社会の問題について考えて動いておくべきだったと思った。それは歯磨きと同じ。歯磨きをさぼると虫歯になるように、考えることをさぼると社会や自分の人生に害が出る。自分の得意な分野で調べて、考えて、情報をみんなでシェアす る。そういう人を増やしたい」と答えました。また「大事なのはさまざまな選択肢があること。情報や知識を得られる状況があり、それ ぞれが自分の事情にあわせて決断ができるように」との 言葉に、まさにその通りだと思いました。
自作の針金細工を手にするおしどりさん
社会について考えることは、自分がどう生きたいか、どういう世界に生きたいかに繋がっています。まったくおしどりさん夫婦は最強のコンビで、最高の講演会でした。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。